がんは会話をしたり、飲んだり食べたりする際に重要な役割を果たす口や鼻、のどなどにもできることがあり、治療による機能や容貌への影響が大きくなりがちです。口の中や鼻の中、のどや唾液腺などに発生するがんを「頭頸部がん」と呼び、歌手で俳優の堀ちえみさんがかかった口腔がんもその一種です。頭頸部がんの中には若い年齢で発症するウイルス性のものもあり、世界中で関心が集まっています。本記事は、 2023年2月27日発売の『手術数でわかる いい病院2023』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。
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脳と目を除く、鎖骨から上の頭部と頸部に発生するがんを総称して頭頸部がんといいます。都立駒込病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長の杉本太郎医師はこう言います。
「頭頸部がんは東南アジアに比較的多く、インドではすべての男性のがんのうち、約20~25%が頭頸部がんです。これには発がん性のあるかみたばこを嗜好する習慣が影響していることが明らかです。これに対して日本ではがん全体のうち約5%と少ないですが、患者数は年々、少しずつ増えており、決して侮れないがんなのです」
■中咽頭がんはウイルス性のものが世界で急増
日本頭頸部癌学会が実施している「頭頸部悪性腫瘍全国登録事業」のデータから算出した頭頸部がんの種類別の割合では、最も多いのが口の中にできる「口腔がん」(30~35%)です。次が気管の声帯周辺にできる「喉頭(こうとう)がん」(約20%)とのどの奥で食道の入り口より上にできる「下咽頭(かいんとう)がん」(約20%)、いわゆる「のどちんこ」の周辺やうわあごの軟らかい部分、扁桃腺(へんとうせん)や舌の付け根にできる「中咽頭がん」(約15%)、鼻の奥あたりにできる「上咽頭がん」(約3%)と続きます。残りは「鼻腔がん」や「副鼻腔がん」「唾液腺がん」などで、これらはきわめてまれです。
恵佑会札幌病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長の渡邉昭仁医師はこのように話します。
「下咽頭がんや喉頭がんなど、頭頸部がんの多くにはアルコールやたばこが関与していると考えられており、男性に多く、60歳から年齢とともに患者数が増えます。一方、口腔がんや中咽頭がんは若い人にも見られるのが特徴です。とくに中咽頭がんは近年、性感染症や皮膚病の原因となる『HPV(ヒトパピローマウイルス)』によって引き起こされるものが世界中で急増しており、日本でも30代の患者や女性患者が珍しくないのです」
ひとくちに頭頸部がんといっても、できる場所によって原因や治療法はざまざまです。ここからは、頭頸部がんに分類される主ながんについて、それぞれの特徴を紹介します。