広島・中村奨成(左)とソフトバンク・高橋純平(右)(写真提供・広島東洋カープ/福岡ソフトバンクホークス)
広島・中村奨成(左)とソフトバンク・高橋純平(右)(写真提供・広島東洋カープ/福岡ソフトバンクホークス)

 プロ野球の世界でエリートと言えば高校からドラフト1位で入団した選手であるが、中でも最初の入札で複数球団の指名を集めた“競合ドラ1”と呼ばれる選手たちがトップエリートと呼べる存在だ。そのような選手たちは当然プロ入り前から高い注目を集めているが、その注目度の高さゆえに苦しむケースも少なくない。そんな近年の高校生競合ドラ1の現状と、今季の飛躍が期待できそうな存在について探ってみたいと思う。

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 過去10年で最も競合が多かったのが2017年の清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)の7球団で、これは高校生としては1995年の福留孝介(PL学園→近鉄・入団拒否)と並んで最多タイ記録である。ルーキーイヤーは一軍で7本塁打とまずまずのスタートを切ったが、その後は成績が伸びず、4年目の2021年は初めて一軍出場なしに終わっている。

 そんな清宮に転機が訪れたのは昨シーズンのオフだ。新たに就任した新庄剛志監督の指摘もあって体重を大きく減らし、打撃も手首をギリギリまで返さないスタイルに変えると、軽く振ったような当たりでもスタンドインするケースが増加。8月は打率1割台前半と大きく成績を落としたものの、9月以降は巻き返しリーグ5位となる18本塁打をマークする飛躍のシーズンとなった。

 同学年で自身の外れ1位である村上宗隆ヤクルト)が規格外の成績を残しているためどうしても否定的な意見が多いが、圧倒的な投高打低の現在のパ・リーグで高校卒5年目ということを考えると決して悪くない数字である。近藤健介(ソフトバンク)が抜ける今シーズンはより重要な役割を担うことになるが、そんなプレッシャーを跳ねのけて、さらに成績を伸ばしてくれることを期待したい。

 同じ2017年の高校生競合ドラ1で苦しんでいるのが中村奨成(広島)だ。3年夏に出場した甲子園では大会新記録となる6本塁打を放って一躍注目を浴び、2球団の競合の末に地元の広島に入団した。しかし1年目から二軍でもなかなか結果を残すことができずに低迷。2021年にはようやくプロ初ホームランを放つなど飛躍を予感させたが、昨シーズンは成績を落とし、一軍定着を果たすことはできなかった。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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