慈恵病院(熊本市)
慈恵病院(熊本市)

12月2日、横浜市瀬谷区の公園で乳児の遺体が発見された。警察は死体遺棄事件として捜査している。相次ぐ痛ましい事件に対して、どう手を打ったらいいのか。親が育てられない子どもの命を守るため、匿名で預かる「赤ちゃんポスト」と、予期せぬ妊娠をした女性の孤立出産を防ぐため、病院の担当者だけに身元を明かして産む「内密出産」。これらに対応する産婦人科医院を、小児科など5医院を運営する医療法人社団「モルゲンロート」(東京都江東区)が、2024年秋に新設する予定だ。いろいろと議論がある取り組みだが、開設を決めた理由は何か。理事長の小暮裕之氏(43)らに聞いた。

【写真】特別養子縁組により赤ちゃんを迎えた久保田智子さん

 小暮理事長が赤ちゃんポストを設置しようと思ったきっかけは、小児科医として虐待の悲惨な現場を目の当たりにしてきたことからだったという。

「過去に骨と皮のミイラのような状態で運ばれてきた3歳児がいました。病院にたどり着いて、何とか一命はとりとめたものの、集中治療室(ICU)から一般床に移ると、親からの暴行で、今度は頭蓋骨の骨折と脳内出血を起こしていました。命からがら助かった子もいれば、手遅れで亡くなってしまった子も見てきました」

 厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」(第18次報告)によると、2020年度に把握した虐待死(心中以外)49人のうち、0歳児(0日、0カ月を含む)は32人おり、約65%を占めていた。前年度の0歳児の死亡も28人(49%)と、0歳児で亡くなる事例は多い。

 それを減らすために赤ちゃんポストは有効な手段になり得る。小暮理事長は、現場に立っているときから、「産婦人科を立ち上げるなら、虐待死を未然に防ぐために赤ちゃんポストもセットにする」という設計図を描いていたという。

 赤ちゃんポストには、「育児放棄や無責任な出産を助長しかねない」といった慎重な意見も多くある。それでも、小暮理事長は、

「物言える大人ではなく、子どもの気持ちを優先したい」

 との考えだ。

「赤ちゃんはしゃべれませんが、少なくとも生まれながらにして、『死にたい』とは言いません。赤ちゃんには生きようとする強い生命力があります。500グラムで生まれてきた超低出生体重児でも、ちゃんとケアをすれば助かる時代です。大きくなる過程で不整脈病気などの課題がいっぱい出てくるかもしれません。それでもちゃんと産声を上げて生まれてきた子は、大人たちの都合で死なせてしまうのではなく、1人でも2人でも多く助けられる受け皿が必要だと思っています」

医療法人社団「モルゲンロート」の小暮裕之理事長
医療法人社団「モルゲンロート」の小暮裕之理事長
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蓮田院長「私は善人ではない」