長福寿寺の人形供養堂。人形抱き観音が祀られている
長福寿寺の人形供養堂。人形抱き観音が祀られている

○和歌山の淡嶋神社は女性の守護神

 実はひとがた供養というものは、古くからある風習のひとつだ。たとえば3月3日の流し雛、大祓(6月30日と12月31日)で行われるひとがた厄祓い(今では車型もある!)、子どもの誕生の際の頭型の祓えなど、地方を回れば独特の風習も残っているはずだ。これは逆にひとがたに自分の穢れを移して、水や火で清めるというものであるが、この延長線上に人形を流したり、焚き上げたりするお寺が古くからあった。いずれも檀家などからの相談を受けて始められたことであろうが、流し雛(ひな祭りそのものも)の発祥の地として知られる和歌山の淡嶋神社は、流し雛から発展した有名な人形供養の神社である。祭神が少彦名命であることから、女性守護の神社ということから今では婦人病治癒祈願、子授け祈願などでも知られている(使用済みパンツを奉納する)。

○人前での展示が供養に

 関東に目を向けると、房総半島のちょうど真ん中あたりに位置する「長福寿寺」という金運で知られるお寺がある。こちらの寺伝によれば、人形供養の歴史は400年前までさかのぼれるという。今では全国各地から寄せられる人形を毎日供養し、定期的に焚き上げをしているのだとか。人形供養のお堂はまさにお焚き上げを待つ供養中の人形でいっぱいで、私が参拝に訪れた日も平日にもかかわらず、車でお堂近くまで乗り付けお坊さまに託す人たちが並んでいるありさまだった。

○人形の心を供養する

 現在は、かなりのお寺で人形供養を受け付けてもらえるようになった。都心のお寺では難しいが、境内の広いお寺にはお焚き上げのできる設備が用意しやすいのも理由だろう。多くの供養の場では人形はしばらく展示され、皆から参拝やお経や祝詞をいただく。それが供養の最初なのだとお坊さまたちは言う。そう言えば、古くなった人形たちが持ち主の心を取り戻そうとする外国のアニメがあった。そういった映画の影響などもあるのだろうか。

 いらなくなった人形をゴミ袋に入れてポイするのも人それぞれだが、聞いたところに寄れば、それでも人形に清めのためのお塩をかけるだけでも違うそうな。はてさて、葬儀の帰りに渡される清めの塩の使い方も知らない人が、そんなことを知っているのも不思議なものだ、と時代は変化するのだなと思う次第である。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)

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鈴子

鈴子

昭和生まれのライター&編集者。神社仏閣とパワースポットに関するブログ「東京のパワースポットを歩く」(https://tokyopowerspot.com/blog/)が好評。著書に「怨霊退散! TOKYO最強パワースポットを歩く!東東京編/西東京編」(ファミマ・ドット・コム)、「開運ご利益東京・下町散歩 」(Gakken Mook)、「山手線と総武線で「金運」さんぽ!! 」「大江戸線で『縁結び』さんぽ!!」(いずれも新翠舎電子書籍)など。得意ジャンルはほかに欧米を中心とした海外テレビドラマ。ハワイ好き

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