2014 年に就航した4 代目の済生丸。車いすで船内を移動できるようエレベーターを備えるなど、バリアフリー設備を充実させた。X 線装置などのデジタル化、マンモグラフィー、生化学自動分析装置なども導入している
2014 年に就航した4 代目の済生丸。車いすで船内を移動できるようエレベーターを備えるなど、バリアフリー設備を充実させた。X 線装置などのデジタル化、マンモグラフィー、生化学自動分析装置なども導入している

 済生丸の基本方針のひとつに「島の特性を考慮した予防医学を重視し、島民が『自分の体は自分で守る』ことを支援する」というものがある。病気を早期発見し、早期治療につなげる「検診」が、済生丸の主な役目だ。診療所がない、または診療所の設備が乏しい離島は多いため、済生丸は診察室や処置室に加えて、血液、心電図、超音波、X線、マンモグラフィー、胃透視、生化学自動分析装置などの検査装置を搭載している。済生会今治病院の菊池泰輔医師は言う。

「医療の進歩は目覚ましいですが、進行した状態で病気が見つかって、その後の生活に影響が出てしまうといったケースは、まだたくさんあります。済生丸が行っている検診、予防医療は地道な取り組みですが、長い目で見たら患者さんの大きな利益になります。アクセスが不便な島に赴いて、受診しやすい機会を提供するのは、とても大切なことです」

 実際に、済生丸の検診でがんが早期に見つかり、命が助かったという事例は多数あるという。ドクターヘリに代表されるような急性期の救急医療体制も必要だが、まずは定期的に検診を受けて自分の体のことを知り、生活習慣の改善や服薬・治療を継続することが、健康管理の基本になる。

問診を行う菊池泰輔医師(写真左)
問診を行う菊池泰輔医師(写真左)

 阪神・淡路大震災の際には、災害援助診療船として活躍した。大人用と子ども用の紙おむつ計約1万6千枚、粉ミルク約1・2トンなどの緊急援助物資を積み込み、震災翌々日の朝に神戸新港へ入港。済生会の医師、看護師らが41日間にわたって救援活動を行った。14年から運航中の4代目済生丸は、1日3トンの海水を真水に変換する装置も搭載。平時は診療・検診を続けながら、発生が危惧される南海トラフ地震などに備えている。

■高齢化が著しい嘉島 コロナ禍も診療を継続

 コロナ禍でも病気は待ってくれない。感染対策のため、船内の設備がないとできない検査以外は各島の集会所などで行う、一部検査を中止するなど、工夫をして済生丸は今年も活動している(下地図参照)。

済生丸の主な診療(検診)実施地域
済生丸の主な診療(検診)実施地域

 愛媛県南部・宇和島市にある嘉島(同地図左下)も、済生丸が巡回する島の一つ。市の中心部から西方約19キロにあり、昨年時点の人口は67人、高齢化率は53・7%で、前出の離島の平均値よりさらに15ポイント近く高かった。診療所は一つあるが、医師は週2日、別の島から通いで来ている。市中心部への定期船は1日3本出ているが、高齢者だけで1日がかりで検診に行くのは容易ではない。

 今年度、嘉島では5月に1次検診を実施。島民の半数を超える35人が血液検査などを受けた。1次で気になる結果が出た人を対象とした7月の2次検診では胸部X線、心電図、便潜血検査、医師問診を行った。受診者32人を前出の金子医師と菊池医師、済生会今治病院の研修医・水谷雄一医師と同・村上友梨医師らで診療。このほか看護師、検査技師など、総勢21人のスタッフが乗船した。

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済生丸に乗船した医師らの願うこととは