「経済」と呼ばれる印鑑売りを続けていたころ、貧しい主婦をW展に来させたことがある。

「借金をしても」と執拗に勧める先生の言葉に、迷いが生じた。奥の部屋でタワー長に対し、「あの人、本当にお金がないんです。授けるのは無理」と報告した。するとタワー長は「お前がそんな心情でいるから、それがお客さんに伝わるんだ。そんなことなら帰れっ」と、どなりつけた。

 結局、「私が悪かった。先生に従います」と反省し、祈り、客の所へ戻った。「授かることがお客さん自身の救いなのだ」と念じながら、客の主婦に対し涙を流して「絶対大丈夫よ、大丈夫よ」と、壺などの購入を勧めた。これは「絶対トーク」。『汽車ボッポ』の「おかあさん、がんばろう」にあたる。主婦は3万円の数珠を買わされて、帰って行った。

 E子さんらはホームと呼ばれる合宿所に住み、食や住は保障されているが、渡される金は月1万2千円。印鑑の売り上げなどはその日のうちに「会計のお姉さん」に全額渡した。「統一教会創始者の文鮮明師の所へ行くのだろう」「摂理に使われる」と思っていた、という。が、具体的にこうした商法の売り上げがどうなったのかは、彼女らも知らない。

※朝日ジャーナル1986年12月5日号から