佐藤二朗さん
佐藤二朗さん

 個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は独り言について。

【写真】やっぱり仏。佐藤二朗さんの別カット

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「心のお漏らし」と表現したのは誰であったか。

 歳を取ってくると増える独り言。

 心の中で思ってることが半ば無意識に声に出てしまう。

 私、齢(よわい)53。

 漏らしてます。

 ほとんど毎日、漏らしてます。

 なんなら常時漏らしてます。

 車を運転してる時なんぞ、車内には僕1人ということもあり、息をするように漏らしてます。

 心の中だけで留めればいいものを、全部声に出しちゃう。

 全部吐き出しちゃう。

 心はオムツを履けませんから、

 あ、ごめんなさい突然話が変わりますが、いま大阪に向かう新幹線の中なのですが、大雨の影響で到着時刻が遅れるという車内アナウンスを喋ってる車掌さんが、

 噛み噛み。

 むっちゃ噛んでる。

 ちょっと悔しいくらい面白い噛み方をしているので、今後の芝居の参考に聞き耳を立てています。

 ………。

 ごめんなさい何の話でしたっけ。

 ………。

 お漏らしだ。お漏らしにはオムツが必要って話だ。

 ………。

 ちがうちがう、心のお漏らしだ。独り言の話だ。

 ま、でも噛み噛みの車掌さんが面白いから、そっちの話を書くか。

 ………。

 ………。

 ………。

 ごめんなさい寝てました。

 昨日、自宅晩酌でついつい呑み過ぎて、夜更かししちゃったんですね。

 で、今朝は早かったので、ねびそく。

 ねびそくってなんだ、寝不足ね。

 僕のガラケー、予測変換で「ね微速」って出ました。

 なんかいいですね、「ね微速」。うん。なんかいい。なんだろう。峰不二子が「ルパ~ン、そんなに急いじゃダメ。急がなくたって、アタシは逃げやしないわ。ね、ルパン、だから、微速でいいの。ね、ルパン。微速。ね、微速」

 ………。

 ごめんなさい寝てました。

 ちょちょ、車掌さん、「ごまいわくをお掛けそます」って。

 悔しいよ、車掌さん。俺ァ悔しいよ。「ご迷惑をお掛けします」という短い文言をそこまで面白く噛めるなんて。

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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