反対署名を明治神宮の事務所に提出した上智大生や関係者たち。左から3人目が森末七海さん、5人目が楠本夏花さん(撮影/岩下明日香)
反対署名を明治神宮の事務所に提出した上智大生や関係者たち。左から3人目が森末七海さん、5人目が楠本夏花さん(撮影/岩下明日香)

■樹木伐採に触れず計画が決定

 そもそも、東京を代表するイチョウ並木を誇る神宮外苑で1000本もの樹木を伐採する都市計画が承認された背景には何があるのか。

 最初に東京都の計画が決定したのは、2013年6月。神宮球場や秩父宮ラグビー場がある神宮外苑地区を再開発することによって、「緑豊かな風格ある都市景観を保全しつつ、世界に誇れるスポーツクラスターを形成」することが目的とされた。そして18年11月に「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」として再開発計画が策定され、22年2月9日の東京都都市計画審議会で可決、承認され、3月10日に告示という流れで手続きが進んできた。再開発の事業者となっているのは、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事の4者だ。

 だが、日本イコモス国内委員で中央大学研究開発機構の石川幹子機構教授はこの計画に不自然な点があることに気づいた。21年12月14日に都民への説明として公表された都市計画案を見たときだった。

「このときの地区計画案の概要では、樹木を大量に伐採することは、一言も書かれていませんでした。計画図案通りに新しい施設を建てたら、いまある樹木はどうなるのか。環境保全についても具体的に記されていませんでした」(石川機構教授)

 石川機構教授は、21年12月28日に、都市計画縦覧に基づく「意見書」を東京都に提出し、22年1月2日より単独で樹木調査を行った。その結果、約1000本の樹木が伐採されることが判明した。このため、22年1月29日に、日本イコモスから公表を行った。事業者が、世論の情報公開の要請をうけて、伐採・移植の発表を行ったのは、22年4月26日のこと。既存樹木1904本のうち、保全は848本で、移植145本、伐採892本、移植検討19本、移植と伐採を合わせると1056本にも上ることが明らかにされた。

■大量の樹木移植と維持は困難

 神宮外苑地区では、新国立競技場を建設したときにも1545本もの樹木が伐採され、219本が移植された。だが石川機構教授が現地調査をしたところ、移植された樹木は「惨憺(さんたん)たる状況」で、樹形を維持していたのはわずか3本だけだったという。こうした「前例」があるなかで、神宮外苑の樹木の移植がうまく進むとは思えなかった。

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樹木の伐採は「2本で済む」代替案も