東京都心にある明治神宮外苑の再開発計画が揺れている。再開発は三井不動産や明治神宮など4者が事業者となっているが、ラグビー場と野球場の入れ替え工事などにともない、約1000本もの樹木が伐採される予定で、批判の声が上がっていた。現役大学生らが伐採に反対する署名を集めて明治神宮に提出したり、計画見直しを求めるデモが起こったりと、反対運動は過熱している。すでに可決された都市計画が立ち往生する異例の事態の背景には、どのような問題があるのか。
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6月中旬、上智大学の学生らは、樹齢100年以上の樹木を含む約1000本の伐採に対する反対署名を抱えて明治神宮の事務所を訪れた。
「外苑の樹木は国民の献木と寄付によるものであり、植えたのは全国から集まった青年団です。いまの私たちと同じ年頃だった当時の青年たちが、100年先の未来を思い、成長を祈って植樹したはずです。その思いに、どうか耳を傾けてほしいです。青年たちの思いを守り続けていくはずの明治神宮が、開発のために伐採しようとするのはおかしいと思います」
署名呼びかけ人の楠本夏花さん(18)はこう語る。伐採反対の署名は1万筆以上集まったという。
明治神宮外苑地区の再開発計画が東京都に承認されたのは、2月9日のこと。当時、まだ高校生だった楠本さんはイタリアに住む叔母の影響でこの再開発の問題点を知ることになったが、その時点では情報がほとんど入ってこなかったという。
「署名活動を始めた2月時点では、1000本もの樹木が伐採されることは、ほとんど知られていませんでした。署名を集めていると、すぐ近くに住んでいる地域住民にさえ説明されていないことがわかりました」(楠本さん)
楠本さんは、4月に上智大学文学部新聞学科へ進学。そこで出会った友人と一緒に署名活動を続けた。活動を機に初めて外苑を訪れた上智大生らは、その景観に魅了され輪が広がっていったという。
新潟県から上京した女子学生(18)は「地方出身だから緑が大好き。外苑のこの景観を残したいです。署名活動をしていなかったら、再開発計画をうのみにしていた」と活動に参加した理由を話す。上智大生らがインスタにイチョウ並木の写真を載せて署名を呼びかけると、地方の友人から「いつか訪れたい」と賛同の声が寄せられた。さらに、イチョウ並木の通りにスポーツカーを止めて写真を撮る愛好家らも、自分たちの仲間に署名を呼びかけるなど、署名の輪は徐々に広がっていった。