評者は一昨年、やはり文章読本の『三行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾』(CCCメディアハウス)を上梓した。本多さんの本書と比較して評されることが、光栄ながら、何度かあった。しかし、わたしが本を書いているときに、本多さんの本を参照することは一度もなかった。今回、改めて読み返してみると、ずいぶん多くの箇所で、ほとんど同じことを主張している。自分でもびっくりした。「記者になるつもりのなかった元バンドマン」の記憶に、それだけ深く染みこんでいたのだろう。

 いま、真新しく本書を読もうとする読者にも、約束できる。平明で、気取ったところのない、実用的でテクニカルな本書は、何十年たっても記憶に残っているだろう。原理原則は古びない。また、それだけではない。筆者の文章には、なんともいえぬ中毒性がある。規矩正しい文章を書く。それはすなわち、きわめて個性的な文体を獲得することでもある。(朝日新聞編集委員兼天草支局長 近藤康太郎)