中学受験塾「アントレ」代表の柏原大夢さん(撮影/作田裕史)
中学受験塾「アントレ」代表の柏原大夢さん(撮影/作田裕史)

――共感が8~9割ということは、残りの1~2割はどこかに違和感を持たれたのだと思いますが、現場の塾講師として「ここは違うのでは」と思った部分はどこですか。

 志望校への合格率を判断する際に、全国模試の成績を1ポイント単位で重視しているところはちょっと違うかなと感じました。実際に小学生が模試を受けると、上下5ポイントくらいはすぐに動きます。偏差値65の子は調子が良い時は70にもなるし、悪ければ58くらいに落ちることも珍しくありません。そう考えると模試で1~2ポイント上がった、下がったということで志望校を決めることは現実的ではありません。

 全国模試は母体が大きくなるほど、さまざまな生徒に対応する必要があるので基礎から応用、難問まで幅広く出題されます。でも、実際の入試ではそんなに幅広くは出題されません。中堅校では基礎問題が中心ですし、上位校は応用問題ばかりです。その子が受ける学校で「出ない問題」が多くを占める模試では、正確な実力は測れません。志望校別につくった問題では合格判定70%取れた子が、一般模試の判定は20~30%なんていうこともザラにあります。

 特に6年生後半になると志望校別の対策が中心になるので、模試の成績は本当に参考程度です。たとえば、武蔵中の入試問題はすべて記述式なので、その対策をするほど模試の成績は落ちます。武蔵は四谷大塚の模試では偏差値65くらいですが、アントレでは偏差値50台の子でもバンバン受かっています。今年も15人受けて12人合格しましたが、その半分は偏差値50台でした。そうした模試の“特殊性”みたいなところは、もう少し丁寧に描いてもよかったと思います。

――逆に、漫画で登場する数々のエピソードの中から「ここはよくぞ描いてくれた」という部分はありますか。

 主人公の塾講師・黒木蔵人が模試の問題をビリビリと半分に切って、下位クラスの子たちには前半の基礎問題だけを半分の時間で解かせることで、成績をアップさせるシーンがあります。これは本当に効果的で、アントレでも実践しています。もちろん模試を破ったりはしませんが(笑)。たとえば大問が1~9まであった場合、下位クラスの子には大問1~5までを2セットやらせるんです。先ほども述べたように、下のクラスの子に模試後半の応用、難問を解かせても時間の無駄になります。むしろ、後半に問題が多くあることで焦ってしまいます。その子たちが解ける問題に絞って、短時間で解く訓練をした方が成績は上がります。

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子どもの「カンニング」は本当に多い