降矢氏が在籍する「FUYUTSUKI -PARTY-」の店内(撮影/写真部・張溢文)
降矢氏が在籍する「FUYUTSUKI -PARTY-」の店内(撮影/写真部・張溢文)

 ただ、降矢氏が客の要望をすべて受け入れるホストかといえば、そうではない。プロのホストとして『できないこと』の境界線はきちんと決めているという。

「僕の場合は、支払いと引き換えに無理な要求をしてくる子には『無理だから』とはっきり断ります。それは下積み時代から一貫しています。一度その要求をのんだらずっと振り回されるし、逆に『もっと無理をきいてくれるホスト』がいればそっちに移っていくわけです。だから、どんなに売り上げが欲しくてもそこは崩しません。それで離れていくお客さんもいるし、失っているものもあると思います。でも長い目でみれば、ホストはその方が伸びると思っています。売り上げ欲しさに何でもやります、みたいなホストは無理がたたって、やはり後で下がっていくような気がします」

 苦手な取引先にどう接するべきか、得意先から無理難題をふっかけられたときにどう対処すべきか――これらはビジネスパーソンが直面する課題でもあり、ヒントになるかもしれない。

 最後に、今のホスト業界の「バブル」についても聞いた。歌舞伎町には数億を売り上げるホストが何人も現れ、まるでバブル時代のように夜な夜な札束が飛び交っている。その頂点にいる降矢氏はこの状況をどう感じているのだろうか。

「昭和の時代のホストクラブは、今よりもっと『娯楽』であり、大人の社交場だった気がします。お客さんからマンションや車を買ってもらうことはあっても、店が違うホストと年間売り上げを競うような文化はなかったはずです。でも娯楽であったはずのホストクラブが、今は数字で勝ち負けを競うゲームのようになってしまった。ホストもお客さんもそのゲームに必死で、本来の『娯楽』からは離れてしまっているような気がします。だから、お客さんにも無理が生じるし、ホストも疲弊する。幸い、僕はそういう苦労はせずにホストをさせてもらっているので、自分の店だけでも後輩たちには、お客さんと自分たちが幸福になるような働き方をしてほしい。売り上げが上がっても幸せにならないようなホスト業界の仕組みは変えていくべきです。まずは自分の店から、少しずつでも変える努力したいと思っています」 

 NO.1ホストの肩には、業界の行く末もかかっている。(AERAdot.編集部・作田裕史)