降矢まさき氏(撮影/写真部・張溢文)
降矢まさき氏(撮影/写真部・張溢文)

 しかも降矢氏の場合は、毎年、客の9割が入れ替わるという。つまり、年が変わる度に新規の指名客を何百人もつかみ、売り上げにつなげていく必要がある。昔からなじみの太客(金払いがいい客)に頼って売り上げを作るスタイルではないため、常に新規客を開拓する努力をすることになる。そうした客の心をつかむ上で、他のホストには「絶対に負けない」と自負するところを聞いてみた。

「う~ん……強いて挙げるなら『第三者の目で物事を見られる』ところかもしれない。僕は昔からコンプレックスが強くて、外からの見られ方をずっと気にしてきました。ルックスだけでなく、こんなことを言っちゃったとか、人の機嫌をうかがってしまう、過剰に空気を読んでしまう傾向がありました。だから、例えばお客さんが怒っている時でも、結構冷静に見ていて、八つ当たりなのか、ただ聞いてほしいのか、マジギレしているのかなどを察した上でフォローができたり。もし間違っていても、相手の反応からそれもすぐに感づけるので0・5秒くらいで切り替えて成功っぽい感じにするとか(笑)。そういう能力にはたけているかもしれません」

 コンプレックスが強かったと語る降矢氏だが、ホスト業界に入ったのも26歳と決して早くはない。地方都市で10代後半からトビ職などとして働き、23歳のときに建設業で独立して起業。従業員を抱えながら自らも職人として現場で働き続け、月収が100万円を超える月もあったという。だが、がむしゃらに働くほど体力的にはきつくなり、体力が落ちる年齢になれば給料が下がる仕組みなどに疑問を感じ、まったく違う世界に飛び込むことを決意。26歳で上京して初めてホストクラブの門をたたいたとき、出会ったのが現社長の渋谷奈槻氏だったいう。

 スタートが遅かったぶん、それからは最短距離で人気ホストへ駆け上がるために“逆算”して経験を積んでいった。最初の5カ月は無駄にしてもいい覚悟で、ひたすら接客のスキルアップにあてた。最初は見た目を磨くよりも、どんな客にも対応できる「人間力」を鍛えた方が得策だと考えたからだ。昔からコンプレックスが強く、初対面の人と話すことも得意ではなかったが、「そんなことを気にする余裕はなかった」と降矢氏は振り返る。

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どんな「痛客」も遠ざけない