降矢まさき氏(撮影/写真部・張溢文)
降矢まさき氏(撮影/写真部・張溢文)

「モテないとか初対面の人が苦手とか、そんなことはこの業界ではどうでもいいんです。気にもされません。仕事をするためにここにいるのだから、必要なスキルを身に付けるだけです。レジが打てないからスーパーでは働けません、という人はいませんよね? いくら会話に自信があったところで、お客さんは一人一人違う。ある人に対応できても、他の人には通じませんでは仕事にならない。だから得意なことなんて考えずにゼロからスタートして、毎日お客さんについて、怒られたり、喜ばれたりしながら、経験値を積んでいくしかないんです」

 まったく違うタイプの客を相手にその人が本当に望むサービスをその時々で提供する――言うは易しだが、会社員でもこれを実践できている人は少数だろう。ましてや相手は時に一回で数百万も自分に“投資”してくれるお得意様。機嫌を損ねればすべてが飛ぶ可能性もある。何に気を付けながら接客しているのか。

「感情が出ないように、喜怒哀楽を意識的にコントロールしています。いわば『無』の状態です。ホストは感情に訴えかけろと言う人もいますが、その感情は『使える』ようになるのがプロだと思っています。普通の人が怒るところを笑いに変える、本来は流してもいいところを今後のことを考えて怒ってみせる……でもそれは“フリ”とは違います。怒ると決めたら本気で怒る。意識をコントロールしながらその感情に“入り込む”感じです。だからお客さんに対して気持ちは入っているんです」

 そして、客に対して先入観を持たないことも大切にしているという。ホストクラブには「痛客」といわれる、ホストに過剰に酒を飲ませたり暴言をはいたりする客が一定数いる。当然、ホストたちには面倒がられる存在となるが、降矢氏はそうした客を遠ざけたりはしないという。

「若い頃は苦手意識もありましたが、そういう子も『お店でお金を払って飲んでくれる女性』という意味では変わらないのだから、お店に来てくれた時点で嫌いじゃないという意識に変わったんです。『苦手だけど楽しませなきゃ』だと苦しいけど、すべて受け入られる気持ちになると、逆に『俺じゃなきゃキミは無理だよね』という余裕さえ生まれます(笑)。だからちゃんと話せば全然『痛い子』じゃなくて、むしろいい子が多い。そもそも、お客さんだってお金を使ってわざわざ面倒なことなんてしたくない。行き場ないストレスをただホストにぶつけているだけ。でもそのストレスの原因を作っているのがホストである場合も多い。『痛く』させているのはホストの側なんだという自覚も必要だと思います」

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