勇退する現職の谷本知事はかつて、森氏のライバルで「竹下派七奉行」と呼ばれた自民党の実力者、奥田敬和元運輸相の支援を受け1994年、知事の座についた。
かつての県知事選で森氏は別の自民党候補者を応援した因縁もあったという。前出の安倍派所属の国会議員は裏事情をこう語る。
「森氏に谷本氏の話をすると、機嫌が悪くなる。谷本氏が上京して霞が関に陳情へ行くという情報を察知すると森氏は『こちらには挨拶に来ないのか』などと愚痴っていたそうです。要するに谷本県政の7期は、ライバルだった奥田氏にやられっぱなしという複雑な思いがあるようです。馳氏は昨年の出馬会見で、谷本県政を引き継ぐような発言をしていた。しかし、森氏の後見で政界入りし、文科相にまでなったわけで、誰も馳氏の発言を真に受ける人はいません。森氏は形勢不利と知るや地元の独自人脈で、馳氏の支援を必死で呼びかけている」
そんな中、馳氏はコロナ禍の1月中旬、林芳正外相を呼び、金沢市内で後援会を開催した。
林氏は岸田派座長というナンバー2で、次期首相の呼び声が高いが、安倍派とは微妙な距離だ。
「林さんが昨年10月末の衆院選で参院から鞍替えし、安倍さんとは地元・山口県でライバル関係にある。そんな林さんに足を運んでもらうほど馳氏はなりふり構わずで、かなり追い込まれている」(前出・自民党県議)
一方、山田氏は強固な地方議員の支援をバックに、活動を展開している。保守分裂の中、金沢市長選挙も知事選と同日に投開票されることになり、前職の山野氏へ風が吹くとの見方も強まっている。馳氏は知名度、実績も十分だが、大苦戦は必至だという。
自民党で政務調査会の調査役を長く務めた、政治評論家の田村重信さんはこう解説する。
「森氏は石川県が生んだ首相だが、地元の知事はこれまで意中の人がなっていない。そこで馳氏を早々に立てたが苦戦。森氏の地元は小松市など石川県西部で、金沢市など中心部はライバルだった奥田氏の地盤。昔、石川県は森奥戦争といわれるほど、対立が激しかった」