そのうえで既存のシステムを、リアルタイム送信を前提としたものに転換することや、情報収集後の対応について態勢を整えるには「コストがかかる」と言い、こう指摘する。

「録画専用のカメラシステムと、リアルタイムのシステムでは、かなりの違いがあります。後者であれば、専用のネットワークが必要ですし、画像を保管するサーバーを常に維持しなければならない。緊急事態を検知したらすぐに警察官が急行するなどの態勢も整えなければならない。ロンドンの地下鉄は警察との情報共有をかなり行っていますが、そのための体制を整えるなど、相当な費用をかけています」(雨宮准教授)

■感情的ではなく客観的データを

 一方、AIを利用することでシステムの運用コストを下げられる可能性がある。

「ただ、防犯カメラで撮影した人の動作をAIが判断して、警察や警備員が声をかけるというのは、まだ社会的な合意がなく、実用化するには時間がかかるでしょう」(同)

 車内用も含めて、防犯カメラの設置や利用については、感情的な議論になりがちだ。

「鉄道各社の車内防犯カメラの運用データは冷静な議論の土台としての価値があります。何らかのかたちで公表していただき、きちんとした客観的データに基づく議論を行っていくことが重要と思います」(同)

 列車内襲撃事件はいずれもローンウルフ型、つまりテロ組織などに関与せず個人による自発的な犯罪だった。車内防犯カメラの拡充だけでなく、若者や高齢者の孤立化を防ぐ意味でも社会に目を向ける必要があるだろう。

(AERAdot.編集部・米倉昭仁)