『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より
『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より

 子どもはどうでしょう。子どもの精神疾患に関して全員を調べた調査はありません。医療機関にかかっていない子が多いので、実数をもとに、系統的な予防や治療計画が立てられないという問題があります。

■精神疾患が身近な病気に

 精神疾患は特殊な病気だとか、限られた人がなる病気だと考えられがちです。一方で、近年は街にメンタルクリニックや心療内科、ストレスケアクリニックといったさまざまな名称の精神科が増えているので、まれな病気というイメージはだいぶ薄れてきているかもしれません。

イラスト/タナカ基地 『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より
イラスト/タナカ基地 『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より

 では日本人はどの程度の割合で精神疾患にかかっているのでしょうか。厚生労働省の患者調査は、その年に精神疾患で医療機関に通院あるいは入院している患者さんだけを集計した数字です。医療機関にかかっていない人の数も含めると、実際の患者数はもっと多く、国際的な疫学調査などさまざまな研究結果から、「4人に1人は一生の間に何らかの精神疾患にかかる」ということがわかっています。4人家族であれば、だれか一人は精神疾患になってもおかしくない。自分自身はもちろん、家族、学校の友だち、職場の同僚、誰もがなる可能性ある――それくらい頻度が高い病気なのです。

 精神疾患の中でもよく知られているうつ病は、罹患率が高く、100人いると 3~5人がうつ病と診断されることになります。著名人でもうつ病を告白している人はたくさんいます。

 しかし、普段ニュースになることはほとんどない精神疾患、たとえば統合失調症も、実は約100人に1人がかかっていて、けっして珍しい病気ではありません。

 精神疾患は誰もがかかり得る身近な病気であり、自分事として知識を持っておくことが必要になってきています。

※『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より抜粋

水野雅文(みずのまさふみ)
東京都立松沢病院院長 1961年東京都生まれ。精神科医、博士(医学)。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。イタリア政府国費留学生としてイタリア国立パドヴァ大学留学、同大学心理学科客員教授、慶應義塾大学医学部精神神経科専任講師、助教授を経て、2006年から21年3月まで、東邦大学医学部精神神経医学講座主任教授。21年4月から現職。著書に『心の病、初めが肝心』(朝日新聞出版)、『ササッとわかる「統合失調症」(講談社)ほか。