河尻亨一著『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』※Amazonで本の詳細を見る
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 すさまじい努力と才能だったと思いますが、同時に大変だったと思います。私がお話をうかがったときも「いつも崖っぷちに立っている気分」とおっしゃってました。「私の人生のテーマはサバイブなのよ」と。

 世間的にはアカデミー賞受賞の大成功者なんですが、こんな感じでアツいんですね。青春のまま真空パックされているような人なんです。「私は永遠の25歳なのよ」と言っていたという話も聞いています。インタビューをしてると、エネルギーが止めどなく湧いてくるのが目に見えるようでした。

■石岡瑛子の生き方に、世界との付き合い方を学ぶ

 しかし、最後のインタビューから半年後に亡くなってしまいました。さまざまな意味で残念でした。フランク・ロイド・ライトとか、ジョージア・オキーフのような長距離ランナーを目指すとおっしゃっていたことを考えると、早すぎる死です。そして、私にとって残念なのは、あれだけすごい人なのに、日本で忘れ去られつつあったんです。

 瑛子さんのような常識や固定概念、それまでの慣習のフレームからはみ出して活動する人に対して、日本の社会というのは、本当に冷たい。不寛容です。口では「国際化」や「個人の自律」「多様な価値観の包摂」「女性活躍」などなどを唱えるのですが、いざ、それをやろうとすると、まずは叩き、次にシカトして、いなかったことにするんです。リスペクトがないんです。

 そのことは東京五輪の開会式、あそこにすべて凝縮されていました。クリエイティブや広告は、社会のいまを映し出す鏡なんだと改めて思いましたね。あのときSNSには、「もし、石岡瑛子が生きていたら……」という無念の書きこみが溢れていました。

 そういう状況に一石を投じるために本書は存在します。私の目論みとして、石岡瑛子という“意志”を社会に注入したいわけです。石岡瑛子さんの人生には、デザイナーや表現者、メディアの関係者だけでなく、経営者や起業家、研究者、いまからキャリアを築こうとしている若者etc――新しい何か、まだ見ぬイノベーションを生み出そうとしている人へのヒントとメッセージがいっぱいありますから。

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