毎日出版文化賞受賞式でスピーチをする河尻亨一さん(撮影/書籍編集部)
毎日出版文化賞受賞式でスピーチをする河尻亨一さん(撮影/書籍編集部)

 世界的なデザイナー石岡瑛子の評伝『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』(河尻亨一著・朝日新聞出版)が第75回毎日出版文化賞(文学・芸術部門)を受賞。12月13日、その贈呈式が椿山荘でおこなわれました。

【毎日出版文化賞授賞式の様子はこちら】

 この賞は毎日新聞の主催で1947年に創設、第1回の受賞作には谷崎潤一郎『細雪』ほかが選ばれるなど、戦後の文学や学術、ジャーナリズムの文化を築いてきました。

 受賞者挨拶で、著者の河尻さんは、石岡瑛子さんのタイムレスな仕事と人生について語りました。仕事の領域や国境、さまざまなボーダーを超えてきた瑛子さんの生き方を伝えることで、停滞気味な日本社会に一石を投じたい――そんな河尻さんのスピーチの全容をお届けします(一部加筆)。


■芸術と商業は水と油。でも、そのど真ん中を行く

 ご紹介に預かりました河尻と申します。このたびはありがとうございます。各部門を受賞された皆様おめでとうございます。今日のスピーチはマックス10分までと言われているのですが、私は話しだすと止まらなくなります。途中から自分でも何を言っているのかわからなくなるタイプなので少々心配です。

 ですから、原稿を読ませていただくことにしました。ご安心ください。昨日、練習したら8分30秒でした。すぐに終わりますので温かく見守ってください。

 まず自己紹介がてらのお話になりますが、私の仕事は、説明するのがややこしいんです。何がややこしいかと言いますと、関わる領域が主にふたつあるんですね。ひとつは出版界。いわゆるジャーナリズム、物書き、編集者なんかの仕事です。

 それだけならシンプルなんですが、もうひとつ。広告やデザイン界の人間でもあるんです。最近はそうでもなくなってきましたが、出版文化と対照的なド派手でミーハーな世界です。結構なギャップです。

 たとえて言うなら、水と油。私はその二つの世界のスキマに生息しています。“両生類”みたいな物書きなんです。

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「自分で言うのもなんですが、これはなかなかすごい本です」