長野県の「アニマル桃太郎」繁殖場で保護された犬たち(撮影・太田匡彦)
長野県の「アニマル桃太郎」繁殖場で保護された犬たち(撮影・太田匡彦)

 冷たい雨が降っていた9月2日、長野県松本市内の山中にある繁殖業者「アニマル桃太郎」の繁殖場では早朝から、長野県警の捜査員らによる家宅捜索が行われていた。2階建ての建屋の中には、繁殖用の犬約500匹が狭いケージに詰め込まれていた。

【写真】繁殖場で保護された丸刈りにされた犬

 犬たちの激しい鳴き声が響き渡る中、トイプードルやポメラニアン、柴犬などが次々に運び出されてくる。遠目にも、多くが薄汚れていて、長毛種では体が毛玉に覆われているものもいるのがわかる。防護服に身を包んで出入りする捜査員の一人は、「中は臭くて息ができない。吐きそうだ」と話した。

 同県警は11月4日、十数年以上前から犬の繁殖業を営んでいた男ら2人を動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕した。劣悪な環境で衰弱させたり、病気になったのに適切な処置をしなかったりして362匹を虐待した疑いがある。男らは、市内2カ所で計約1千匹を飼育し、繁殖した子犬を埼玉県内のペットオークション(競り市)を利用してペットショップに販売していたという。

 フランスで11月18日、2024年以降にペットショップでの犬の販売を禁じる動物愛護法が成立した。一方で日本では、アニマル桃太郎のような劣悪な繁殖業者が長く営業を続け、そこで繁殖された子犬や子猫が全国のペットショップで売られている。日本でも、繁殖業者やペットショップに対する規制の強化は、過去4回の動物愛護法改正のたびに議論されてきた。だが、ペット関連の業界団体の激しい抵抗により、思うように規制強化が進んでこなかった現実がある。

 12年の動物愛護法改正の際には、幼すぎる子犬・子猫の心身の健康を守るため、生後56日を超えるまで販売を禁じる「8週齢規制」の導入が検討された。

 8週齢規制には、ペットショップでの販売状況を適正化する効果も期待されていた。子犬・子猫にぬいぐるみのようなかわいさがあるとされる生後40~50日ごろにショップ店頭に陳列できなくなり、消費者の衝動買いを抑制できる。

 離乳後も一定期間、繁殖業者のもとで飼育しなければならないため、人手やスペースの問題から、これまでのような大量繁殖はしにくくなるとも見られている。

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動物愛護法が「骨抜き」になった理由