記念撮影する田中英寿容疑者(前列左)、理事の井ノ口忠男被告(後列右)、医療法人「錦秀会」前理事長の籔本雅巳被告(後列左)(日大HPから)
記念撮影する田中英寿容疑者(前列左)、理事の井ノ口忠男被告(後列右)、医療法人「錦秀会」前理事長の籔本雅巳被告(後列左)(日大HPから)

 日本大学のトップである田中英寿理事長(74)が脱税の疑いで逮捕され、学内に波紋が広がっている。2018年のアメフト悪質タックル問題、今年7月の現職理事逮捕に続く不祥事。同大学は約2500人の教員を擁しているが、教育や研究に勤しむ教員たちは理事会トップの逮捕に、どんな思いを抱いているのか。 また、日大のあり方にどのような問題意識を持っているのか。現職教員の一人で、教育行政などが専門の日本大学文理学部・末冨芳教授に話を聞いた。

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――田中理事長の逮捕を、日大の教員としてどう受け止めましたか。

 業務に追われていた中での突然の知らせでした。証拠があっての逮捕でしょうから残念です。井ノ口忠男元理事が逮捕されてから時間がありましたが、この間も「大学として事態の深刻さは認識していないんだろうな」という話が耳に入ってきていました。

――大学の内側から見ていて、ガバナンスに問題点を感じることはありますか。

 理事会がかなり閉ざされたものであったということは確かです。特に問題なのは、学部長にも校友会出身の理事にも、田中理事長の息がかかった人があまりにも多すぎたこと。また体育会(保健体育審議会)、とくにアメフト部や相撲部出身の職員・理事が派閥化し大学を私物化してすぎていたことなどが教員の間では問題視されていました。こうした状況は、内部統制ができない典型例です。もともと、理事の多様性の無さは問題視されていましたし、「本当に能力に根ざした抜擢なのか」と指摘する人はいました。そうした声がありながら、日大がきちんと問題化できなかったという点で、ガバナンス能力がないとみなされても仕方がないところがあると思います。

――一人の教員として教育・研究活動をしていくなかで、具体的に「問題がある」と感じることはありましたか。

 ものを買うときに「日大事業部を通すように」と非常にうるさく言われたことがありました。事業部を通しての発注は、大学単位では一括購入で安くするようなスケールメリットもあったと思うのですが、私の所属する文理学部は学科数が多いので、事業部に頼んでもスケールメリットはあまりないうえに、値段が高いですし、届くのも遅い。それでも「何でも事業部で買いなさい」と要求されることがありました。多くの教員が、事業部を通して買ってしまうと(事業部が)出入りの業者さんにダンピングしてしまわないかと心配していました。私個人も、研究者として発注する分には事業部は使いづらいし、中抜きがあることを心配して使わなかった。私の所属する学部の研究者は、ほとんど利用していないと思います。

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