◆「選手自身でサインを読むのは技術の1つだった」

 反紳士的なプレーに対しては報復も辞さない。アンリトン・ルール(不文律)とも呼ばれる暗黙のルールが存在する米球界だが、勝負への執着心はそれすら上回るものがある。今季のNPBでもサイン盗み疑惑が問題になった試合もあったが、米国でもそういった場面に出くわしたことはあったという。17年ワールドシリーズ、アストロズのサイン盗みは組織的であり問題視された。しかし個々で行うサインを見破る行為は、時に勝利のためのプレーという考えもあったようだ。

「選手自身でサインを読むのは技術の1つだった。しかし選手によっては嫌がる選手もいる。例えば、球種、コースが(読んだサインと)違う球が来ることがあるから自分の感覚で打席に入って打ちたい選手もいる。そういった場合は打順の前後で話し合いをしている。具体的な方法について打者が投手に教えてくれることはなかった。米国は移籍が多いのでいつ対戦するかわからないから」

「アストロズの場合は大規模にやり過ぎた。選手単位でなくチームぐるみとしてやっていたから大問題になった。何があっても勝つ、世界一になることしか見えていなかったんでしょうね。実はジェフ・ルーノウ元GMが来日した際に東京で呼び出されGM補佐と3人で会ったことがある。石油マネーなどでお金が集まるチームなので、大谷翔平(エンゼルス)を本気で獲得したいということで話を聞かれた。当時世界一を狙っているとも言っていた。(サイン盗みに)関わった球団も選手も一生、消えることのない汚点になってしまった」


◆「『わざとぶつけたのか?』と聞いてきたのは、気が小さいAロッドだけ(笑)」

 長いシーズンのターニングポイントとなる試合、カードにおいてベンチからの指令によって、時に相手の主力打者に故意に死球を与えなければいけない場面もあったという。

「『このカードは2勝1敗で行きたいから初戦で3人にぶつけてくれ』と投手コーチに言われた。もちろん向こうもわかっているから、その後に自軍にも報復死球が来ましたけどね。レンジャーズ戦でぶつけた相手にAロッド(アレックス・ロドリゲス)がいた。マリナーズ時代からの知人でルームメイトだったこともある。ぶつけた時ににらんでいたけど、彼は気が優しいのを知っているのでマウンドを少し降りたら一塁へ向かった。次の日に『わざとなのか?』と聞いてきたので、『そんなわけないやろ』って答えた。そんなこと聞いてきたのは米国生活で彼だけだった(笑)」

「ぶつけるのは良くないのはもちろんですが、投手も生き残るためには必死。例えば、今でこそ厳しくなったがステロイドが普通に出回っていた時期もある。僕はその時代に投げていた。もちろんステロイドをやったからといって絶対に打てるわけではない。技術も必要だが身体能力は間違いなく高くなるわけだから、投げている方からするとたまらない。最近の打者は腕、足などのプロテクターをたくさんつけているから、死球の心配がなく思い切って踏み込んで打てる。投手の攻め方が限定されるから打者有利になるのは必然。投手の滑り止めが問題になったが、それくらいは許してくれというのが本音ですよ」

次のページ
高校野球に対しての考え方