今では多くの大学にお笑いサークルがあり、自分たちが主催するライブやコンテストなどを通じて、サークル同士の交流も盛んだ。その中で切磋琢磨することで、必然的に芸のレベルも高まっていく。

 私自身も、何度か学生芸人のお笑いコンテストの審査員を務めたことがある。大規模な学生お笑いコンテストの決勝に残るような芸人のネタは、本当にクオリティが高くて面白い。

 学生芸人を経てプロになる人の強みは、豊富な舞台経験を持っているということだろう。芸人の芸は現場で磨かれる。生の観客の前でネタを演じて、その反応を見てネタを調整していく。その過程を経て、舞台慣れをしていき、演技力が磨かれ、質の高いネタを作れるようになる。

 しかも、そこには同じ学生芸人の仲間がいる。日常的に彼らと情報交換をしたり、ネタの相談をしたりすることで、プロの芸人の疑似体験のようなことができる。プロとしてデビューする前に、それだけの経験を積むことができるメリットは計り知れない。

 ただ、そうは言っても芸の道は険しい。お笑いを趣味でやっているアマチュア芸人と、それを生業とするプロの芸人の間には大きな壁がある。学生芸人として活躍していても、プロになった途端に伸び悩んで苦戦するケースもある。

 そもそも、一昔前までは、大学を出た若者が芸人を目指すということ自体が珍しいことだった。大卒という立派な学歴を持ちながら、あえて厳しい芸の道に踏み出す彼らは、より意識が高いとも言える。

 ディープな野球ファンは、プロ野球だけでなく高校野球や大学野球にも注目していて、そこでスター候補を見つけたりするのを楽しみにしている。

 学生芸人の世界でもすでにそういう現象は起こりつつある。学生芸人の面白さに目覚めて、熱心にライブに通うファンもいるし、そこから次の「ラランド」が出てくるのではないかと期待している人もいる。

「海の向こうにもう一つのベースボールがあった」という言葉になぞらえて言うなら、大学の門の向こうにはもう一つのお笑い界がある。そこでは未来のスター候補たちがひしめき合い、技を競い合っているのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

著者プロフィールを見る
ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

ラリー遠田の記事一覧はこちら