※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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日本歯科東洋医学会副会長で医療法人ハヤの会の山口孝二郎歯科医師
日本歯科東洋医学会副会長で医療法人ハヤの会の山口孝二郎歯科医師
NPO法人日本・アジア口腔保健支援機構(JAOS)の理事長で、とつかグリーン歯科の渡辺秀司歯科医師
NPO法人日本・アジア口腔保健支援機構(JAOS)の理事長で、とつかグリーン歯科の渡辺秀司歯科医師

「歯医者さんで漢方治療」と聞けば、意外に思う人がほとんどではないか。しかし、歯科でも多くの漢方薬が処方でき、実際に処方もされている。しかも保険診療だ。従来の治療では改善が難しい高齢者の歯の問題で漢方治療が効果を上げているとの報告もある。漢方治療を取り入れている歯科医師を取材した。

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 今年の3月に厚生労働省が公表した、「歯科医師国家試験制度改善検討部会報告書」では、第 116 回歯科医師国家試験(2023年)から特に充実させる出題内容の分野として、「和漢薬(漢方薬)」が挙げられた。

 漢方は5~6世紀に中国から伝わった東洋医学をベースに、日本独自に奈良時代に発展をとげた医学だ。中心となる漢方薬は生薬の組み合わせからなり、病気や症状に加え、患者の体質(証、しょう)を加味して薬を決めていく。体力の低下、食欲不振などさまざまな不調に処方できる薬が多いのも特徴だ。

 医師が使うもの、と思われがちだが、実は歯科でも保険診療で多くの漢方薬が処方できる。ただし、これまでは口腔(こうくう)外科の歯科医師が使うことがほとんどだった。日本歯科東洋医学会副会長で医療法人ハヤの会の山口孝二郎歯科医師はこう説明する。

「口腔外科は口腔がんや粘膜疾患、慢性疼痛(とうつう)、顎(がく)関節症などを専門にしていますが、実は『歯科のなんでも屋』と言われており、原因不明の痛みなど、他の科で手に負えない患者さんがたくさん紹介されてくる。既存の治療で手に負えないものも多く、漢方は大事な治療手段だったのです」

 それが今、一般の歯科医師も学ぶべき必要があるものとして、重要視されているわけだ。その大きな理由は高齢の患者が増えていることだという。

「高齢になるほど口の中の乾燥や舌の痛み、口全体の運動低下や味覚異常などが起こりやすくなります。いわゆるオーラルフレイル(後述)の症状ですね。こうした患者さんは一般の歯科医院にもたくさん来ますが、従来の西洋医学的治療では限界があり、漢方薬を使うとよくなるケースが多いのです。また、高齢になると他の病気を持つ人が多く、痛み止めの薬などが気軽に使えないこともあります。このようなときに痛みに効く漢方薬が有効であるなど、歯科医師が知っておかなければならないこともあります」(山口歯科医師)

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