この現象について、米国のStewart氏らによる報告を紹介します。10~42.2 kmのマラソンを走った24人のランナーの試合後の便を調べたところ、なんと、便1 g中に最大で3.96 mgものヘモグロビンが含まれていたことがわかりました。1回の便の排泄量は、約150~200 g程度なので、1レースで最大0.8 gものヘモグロビンが失われてしまうことになります。体重60 kgの男性の場合、体内に存在するヘモグロビンは650~800 g、体重40 kgの女性の場合、350~460 g程度になります。マラソンや長距離競技で容易に貧血になるもの、納得できるのではないでしょうか。

 これらに加えて、五つ目の原因として、トレーニングや激しい運動が、体内の鉄輸送や吸収を抑制させるヘプシジンというホルモンを増加させてしまい、貧血を引き起こすことも近年指摘されています。これは、鉄をいくら補充しても、鉄の吸収ができないことを意味します。

 女性の場合、月経による血液の喪失のために、一般的に女性は男性よりも貧血になりやすいのですが、それにスポーツが加われば、必要とする鉄の量はさらに増え、貧血に陥りやすくなってしまうというわけなのです。

 さらに、私たちの研究グループが13~22歳の運動部に所蔵する男女を対象に行なった調査で、鉄欠乏だけでなく、オーバートレーニングも貧血のリスクになりうることもわかりました。

 スポーツ貧血を予防するには、鉄を日頃から意識して摂取することと、過度なトレーニング量にならないように、トレーニング量の調整も大切です。運動をしている人が、プロテインを摂取している光景はよく見かけますが、鉄の摂取を意識している人は、まだまだ少ないように感じます。鉄を多く含む赤身の肉や魚を日々意識して取ることが、貧血予防に繋がります。

 今回の五輪をきっかけに、スポーツを始めよう、再開しようという方は、ぜひスポーツ貧血の対策も行ってくださいね。

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