何かあっても論破されるだけなので、何も言いません。10年前のメールを見たころから、少しずつ距離ができて、言いたいことが言えなくなってしまいました。

 何が言いたいのかわからなくなってしまいましたが、この状態でも自分がどうしたいのかわからないのです。自分がしたいこと、やりたいことがわかるようになるためにはどうしたらいいのでしょうか。いつまでも子どものような感じがします。

 甘えた悩みかも知れませんが、誰にも言えずに悩んでいます。なんとかお返事いただけないでしょうか。

【鴻上さんの答え】
 葵上さん。悩んでいますね。でも、僕は葵上さんの相談は、とてもポジティブなものに感じます。

 えっ? 変ですか? こんなに悩んでいるのに、と思いましたか?

 葵上さんは、「何一つ自分で考えて決めたという経験がなく、常に穏便に、言われた通りに生きていれば丸く収まるというように生きて」きたんですね。

 その結果「自分がどうしたいのかわからなく、生きることに支障が出てきました」と思っているんですね。

 そう分析することは、僕にはとても素敵なことに思えます。

 これは、葵上さんの「良い子卒業宣言」だと、僕は感じるのです。

 親のために、波風立てず、ずっと「良い子」を続けてきた葵上さんが、「もうただの良い子は嫌なんだ。私は何がしたいのか自分の頭で考えたいんだ!」と思ったと感じるのです。

「いつまでも子どものような感じがします」と、葵上さんは書きますが、これは正直に言えば子供の感覚です。

 親や先生、周りの期待に応えて、常に「良い子」であろうとするのは、真面目な子供にありがちなことです。ごめんなさい。バカにしているのではありません。優しくて親思いな子供ほど、こう考えるのです。

 葵上さんのように「常に穏便に、言われた通りに生きて」いる人は、とても多いと僕は思っています。葵上さんの悩みは決して特殊なことではないのです。

 いえ、むしろ、「自我」ではなく「集団我」が強い日本では、とても一般的なことだと思います。(「自我」は、自分の頭で考えることで育ちます。「集団我」は、自分を周りに合わせることで育ちます。周りの考え方を自分の考え方だと思う意識です)

 ただし、多くの人はどこかで「良い子」であることをやめます。

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「良い子」をやめる理由とは