間違っても「世界の真実はこれだ!」とか「悪いのはあいつらだ!」とか「あっと言う間に運命が変わる!」なんて本は読まないように。

 読むのは、一人の人間として迷い、苦悩し、選択し、その結果を書いた本です。

 エッセーが読みやすいでしょうが、小説でも、自伝や評伝でもいいと思います。

 ネットでググれば、「お勧めの女性エッセー」とか「生き方に悩む人にお勧めの人物評伝」なんて紹介があります。

 僕からは、ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)をお勧めします。もう大ベストセラーになっていますが、未読でしたらぜひ。

 繰り返しますが、現在は、残念ながら間違った誘惑が多いです。

 ネットをのぞけば、主にYouTubeで、「世界の真実はこれだ!」「悪いのはあいつらだ!」系の映像がたくさんあります。

 簡単に答えを教えてくれて、勉強しなくても世界の本質が分かって、努力しなくても敵を見つけてくれるものは、まず、マガイモノだと思って間違いないです。

 世界はそんなに簡単にはできてないのです。

 葵上さんは、じつはとても聡明な人だと僕は思っています。

「何一つ自分で考えて決めたという経験がなく、常に穏便に、言われた通りに生きていれば丸く収まるというように生きてきて、自分がどうしたいのかわからなく、生きることに支障が出てきました」という自己分析は、とても簡潔で鋭いと思います。

 一般的な言い方をすると「地頭がいい」ということだと思います。

 ですから、いろんな人に話を聞き、多様な読書を続ければ、着実に「判断できる情報」は蓄積できて、やがて、自分の生き方も夫との関係も、自分で判断できるようになるだろうと、僕は思っているのです。

 葵上さん、まだ人生は半分残っています。

 焦る必要はありません。今から一歩一歩、自分の頭で考える、という練習をしていけばいいのです。

 葵上さんの努力を応援します。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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