東京五輪・パラリンピックが今、強引に開催されようとしている。あれほど「平昌では凍死者が出る」「平昌は無観客になるだろう」と騒いでいたマスコミは、東京オリパラについてもっと大騒ぎすべきなのではないだろうか。


  
 平昌のメイン会場は約147億円で建てられた。屋根もなく暖房設備もないと批判する報道は珍しくなかったが、東京はどうか。1569億円という平昌の10倍以上のお金をかけて、屋根もなく、観客席に冷房設備もないほうがおかしくないだろうか。だいたい毎年1000人を超える熱中症の死者が出ている日本だ。暑さ対策のうえでのコロナ対策だなんて、そんなことが、本当に確実に安心安全にできるのだろうか。

 6月に入ってから私は、日本女医会理事の青木正美医師の呼びかけに応じて、国際婦人年連絡会世話人で日本女医会前会長の前田佳子医師、看護師の宮子あずささん、東京新聞の望月衣塑子さん、フラワーデモの呼びかけ人の松尾亜紀子さんと「私たちが止めるしかない東京オリパラ」と称したオンライン抗議デモをはじめた。毎週火曜日に様々な立ち場で東京オリパラに反対する女性たちの声をつないでいくつもりだ。

 女性たちで行うことにこだわったのは、パンデミック禍で仕事を失った人の多くは、飲食やサービス業で働いてきた非正規雇用の女性たちが圧倒的多数であり、また東京五輪のためにかり出される看護師の多くが女性であることなど、「国家」の威信を懸けたイベントのもと、女性たちの人生が見捨てられ、犠牲になっているのを目の当たりにしているからだ。また競技場建設のために都営住宅を強制退去させられた住民の多くは高齢女性でもあった。コロナ禍でなかったとしても、国際的「平和の祭典」の名のもとで行われる大規模開発によって、社会的に最も弱い人生(多くが貧困の女性)が残酷に切り捨てられるのが、オリパラの現実でもある。

 平昌に行ったとき、私はソウルで知人にばったりと出会った。「何しに来たの~?」と、偶然の出会いに喜んだが、「五輪の抗議デモに参加しに来たの」と言われ、「私は……開会式見に来て……」ともごもご言いながら持っていた平昌グッズをかばんに押し込んだのだった。そのとき、彼女たちに平昌オリパラが山を切り崩し、環境を破壊し、土地に張りついて暮らすように生きてきた最も貧しい女性たちの人生を強制的に奪ってきたのだという話を聞いた。平昌に限らず、五輪とはそもそもそういう性質のものなのだと、五輪反対運動を繰り広げている彼女たちが教えてくれた。とはいえ……なのだ。そうは頭ではわかっていても、この五輪が「(汚染水は)アンダーコントロール」とうそで始まっていたと知っていても、私はアメリカ女子サッカーチームをどうしてもリアルに見たいという欲望に勝てず、今回、女子サッカーのチケットを購入したのだった。さすがに既にキャンセルはしているけれど、正しさだけでは動けない私の弱さがある。だからこれほど東京オリパラに反対していても、実際にオリパラが始まってしまったら、エライ方々の思惑通り、選手の戦う姿に私は心動かされるほうの人間だ。こわい。

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感動を強要する国