シソンヌの長谷川忍(左)とじろう(C)朝日新聞社
シソンヌの長谷川忍(左)とじろう(C)朝日新聞社

 お笑いネタにはコントと漫才という2つの代表的なジャンルがある。この2つを比べると、かつてはコントの方がメジャーな芸であると思われていた。

【写真】癖が強く「クズ芸人」と呼ばれるのはこの人

 70年代に一世を風靡していた萩本欽一やザ・ドリフターズはコントを専門にしていたし、80~90年代には『オレたちひょうきん族』『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』などのコント番組が人気を博していた。この時代には「ゴールデンタイムに自分たちのコント番組を持つ」ということが芸人の成功の証だった。

 いわば、お笑い界では長きにわたって「コント高、漫才安」の状況が続いていた。漫才は大阪発祥の古臭い芸であるというイメージが強く、1980年に起こった「漫才ブーム」の時期を除くと、マイナーな芸であると思われていた。

 そんな状況が一変したのが2001年に始まった『M-1グランプリ』である。この番組が大ヒットしたことで、漫才のイメージは向上して、人気が高まっていった。この時期には、コント番組が廃れてほとんど放送されなくなっていた。

 また、『M-1』で活躍した芸人がテレビに出るようになると、テレビ制作者の間でも「しゃべりの達者な漫才師はバラエティ番組でも即戦力になる」という認識が生まれ、漫才師はますます重宝されるようになった。

 2008年にコントの大会である『キングオブコント』が始まっても、状況は変わらなかった。コントを専門にする芸人は漫才師ほどトーク能力が高くないことが多いため、トーク中心のバラエティ番組ではなかなか力を発揮できなかった。

「『M-1』で優勝すると売れるが、『キングオブコント』で優勝しても売れるとは限らない」という定説がささやかれるようになった。『M-1』が始まってから、コントと漫才の価値は逆転して「コント安、漫才高」の時代が来た。コント芸人にとっては厳しい状況になった。

 2014年に『キングオブコント』で優勝したシソンヌも、そんな時代を生きてきた芸人の1組である。彼らのコントは圧倒的に面白く、同業者には高く評価されてきた。特にじろうが演じるかわいげのある中年女性や社会不適合者っぽい高齢男性のキャラクター造形は絶品だった。彼らは、優勝後もトーク中心のテレビ番組では目立った活躍ができなかった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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