神田川さんは新型コロナウイルスの感染拡大で人一倍、気を配っていたという。

「コロナに効果があるとされる、除菌グッズを首から2個、3個とぶら下げていました。消毒液の入った小さいボトルも3つほど持ち、頻繁に消毒。店でも二酸化炭素の濃度をこまめにチェックしていました。マスクは念には念を入れよと3枚重ねにしていた時もあった。それでもコロナに感染してしまう。未だに感染ルートもよくわかりません。本当に恐ろしい」

 父とのプライベートな思い出についても可江さんはこう振り返った。

「仕事ひと筋でした。家でも仕事のことになると厳しい表情だった。しかし、最近はよく『孫を店に連れてきて』と言っていました。孫に会うと、仕事ひと筋の父が優しいおじいちゃんになっていました。毎日、3~4回と電話してきては『おはよう』とか『元気か』と声がけしてくれるのが父の日課でした。プロ野球西武ライオンズとコラボした弁当をプロデュースするなどコロナ禍で厳しい中でも、いろいろアイデアを絞って頑張っていた」

 記者は生前、神田川さんを何度も取材したことがある。料理とはまったく関係がない、事件取材があった時だ。店に電話をしても断られるだろうと、いきなり訪ねると、多忙な時間をさいて、「またかいな、しゃあないなぁ~」とテレビでおなじみの笑顔で応じてくれた。

 神田川さんのモットー「料理は心」について聞いたことがあった。

「どんなに上等な肉や魚でも、最後は心や。心で味が決まる。どんな仕事でも、記事を書くのもそうや。最後は心とちゃうかな」

 神田川さんの言葉には随分、勉強させていただいた。「神田川」の暖簾は可江さんが若女将として、これからも守り続けていくという。合掌。(今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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