おいでやす小田(C)朝日新聞社
おいでやす小田(C)朝日新聞社

 プロの芸人が見せる笑いには「動きの笑い」と「言葉の笑い」の2種類がある。どちらも高度な技術が求められる立派な芸ではあるのだが、どちらかというと今は言葉の笑いが優勢の時代であり、テレビなどで活躍する芸人のほとんどがそちらを得意としている。

【写真】くりぃむ上田に「天才」と言われながら25年間パッとしなかったのはこの人

 人間がこの世に生を受けてから最初に知るのは動きの笑いの方だ。「リズムネタ」と言われるような歌や音楽やダンスを取り入れたネタが子どもにウケやすいのは、言語能力が発達していなくても理解しやすい原初的な笑いだからだ。

 現代は言葉の笑いの時代であり、芸人たちは瞬間的に繰り出すフレーズの面白さを競い合っているようなところがある。芸人が自分の出演したバラエティ番組を見るときには、自分の発言がテロップになっているか(文字として画面上に表示されているか)を気にすることが多いという。

 最近のバラエティ番組ではやたらとテロップが多用されているイメージがあるかもしれないが、実際には出演者の発言の一語一句がテロップとして出てくることは少なく、どうしても聞かせたい決めの一言がテロップになりやすい。だからこそ、芸人は自分の渾身のボケや鋭いツッコミがテロップになってウケているのを見ると、手ごたえを感じるのだ。

 一方、テレビ制作者が出演者の発言をテロップにするのには別の意図もある。それは、インターネットユーザーへの配慮である。今の時代、面白いテレビ番組はSNSなどで話題になることで多くの人に拡散していく。

 一部の熱心なテレビウォッチャーは、自分が面白いと思った瞬間のテレビの画像をキャプチャーして、SNSなどに投稿する。これ自体は著作権法に抵触する可能性のある行為だが、番組の宣伝になるため、多くの場合はテレビ局側も黙認しているようなところがある。

 そこを意識して、作り手の側も「キャプチャーしたくなるような面白い瞬間」を作ろうとする。そのためには、芸人が面白いフレーズを言ったときには、それをテロップでフォローした方がいい。このような事情もあり、テレビでは言葉の笑いはますます重宝されるようになっている。

著者プロフィールを見る
ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

ラリー遠田の記事一覧はこちら
次のページ
時代に逆行したツッコミ芸で話題なのがおいでやす小田