ワクチンが確保できない背景の一つとして、日本の国内でのワクチン開発力、生産力が世界と比べて弱いことが指摘されている。日本ワクチン学会理事などを務める長崎大の森内浩幸教授は「日本はワクチン後進国」と指摘する。

 ワクチン開発には多額の資金が必要なうえ、時間がかかると言われる。研究が行われても、最終的に実用化にまでたどり着けるのはごくわずかだ。また、できたとしても因果関係の有無にかかわらず副反応が問題視されると会社に致命的なダメージが生じる。メリットが大きくないため、日本の製薬会社では積極的な開発はされてこなかった。

 他方で海外では、こうしたワクチン開発には「ビジネスチャンスがある」として、積極的に投資が行われている。国も国防的な観点から支援してきた。例えば、メッセンジャーRNAワクチンという新しいタイプの新型コロナワクチンの開発に成功したモデルナには、13年の段階で米国防総省傘下の防衛先端技術研究計画局が多額の支援を行っていたと言われる。

 森内教授はこう語る。

「アメリカやイギリスなどでは安全保障の観点からもワクチン開発を支援してきた。バイオテロなどが起きたときに自国での対応がまず求められるからです。他方で日本はその必要性を十分には認識していないためなのか、十分な取り組みがなされてこなかった。その差がいま出ていると見ています」

 政府は4月からワクチン開発・生産体制強化のタスクフォースを立ち上げた。内閣府、厚生労働省、文部科学省、経済産業省の関係者で構成された組織だ。省庁横断的な議論を行い、ワクチン開発に向け迅速に動いていく構えだが、疑念の声もあがる。

「あの二人がまたいるのが気になる」

 こう語るのはある関係者だ。「あの二人」とは和泉洋人首相補佐官と大坪寛子厚労省大臣官房審議官。二人は昨年2月、公務での海外出張で二つの部屋がつながったコネクティングルームに宿泊していたことなどがわかり、「行政の私物化」と大バッシングを受けた人物だ。タスクフォースの議長は和泉氏が務め、メンバーに大坪氏も名を連ねる。

 関係者の間では、二人の実務能力にも不安の声があがっている。その背景にあるのは、日本医療研究開発機構(AMED)での実績だ。AMEDは、省庁の壁を越えて医療分野の基礎から臨床までの研究開発を支援するために15年に作られた組織。しかし、和泉、大坪両氏が運営にかかわることで、その理念は失われたという。

「前理事長が『我々の自律性は失われてしまっている』とAMEDの審議会で発言したのは、両氏の意向に沿って予算が決められていたからです。両氏によって各省庁の利益を追求しやすいように組織が変えられてしまった。タスクフォースでも、結局同じような結果になるのではないでしょうか」(前出の関係者)

 自前でのワクチン開発はおろか、ワクチン調達の先行きも見通せない現状。政府には具体的な成果が問われている。

(文/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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