NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役である実業家・渋沢栄一が信奉していたことで、いまふたたび「論語」が注目されている。論語は、2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、企業経営だけでなく、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。現代の親の悩みに対する処方箋として、「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、孔子の格言を選んで答える本連載。今回は、「YouTuberになりたい」という息子を心配する父親へアドバイスを送る。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

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【相談者:11歳の息子を持つ40代の父親】
 11歳の息子を持つ会社員の父親です。小学5年生になる息子の将来の夢は「YouTuberになること」。親世代にはなかった職業のために戸惑っています。スマホ漬けにならないか、個人情報が特定されないか、再生回数を増やしたいがために、悪ふざけの延長でモラルに反する行為に走らないか……など、リスクばかりを心配してしまいます。動画制作は創造性を高めるという見方もあるし、今後はそうしたスキルも必要とは思いますが、できれば我が子には「警察官」「医者」などの安定した職業をめざしてほしいというのが本音です。息子の夢をどのように受け入れ、応援してあげればいいでしょうか。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・「書に云わく、孝なる乎(かな)惟(こ)れ孝(こう)、兄弟(けいてい)に友(ゆう)なり、政(まつりごと)有るに施(ほどこ)すと」(為政第二)

・「惜しいかな。吾(わ)れ其(そ)の進むを見るなり。未だ其の止(とど)まるを見ざるなり」(子罕第九)

・「故(ふる)きを温(たず)ねて、新しきを知る」(為政第二)

【現代語訳】
・「(書経の言葉を引用しながら)私はげんにこうして親に孝であり、きょうだいに友である。それこそが政治への寄与である。わざわざ政治家になる必要はない」

・「顔淵(がんえん)の死は残念だ。彼が、日に日にたゆみなく進歩するのを、私はこの目で見た。その進歩が止まるのを見ることはなかった」

・「歴史や古典による知恵によって、新しい事柄や現実の問題を深く認識する」

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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