NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役である実業家・渋沢栄一が信奉していたことで、いまふたたび「論語」が注目されている。論語は、2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、企業経営だけでなく、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。現代の親の悩みに対する処方箋として、「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、孔子の格言を選んで答える本連載。今回は、「片付けられない10歳の娘」を心配する父親へアドバイスを送る。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

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【相談者:10歳の娘を持つ40代の父親】
片付けが苦手な10歳の娘に悩んでいる40代の父親です。遊んだあとは散らかしっぱなし、学習机はプリントの山。できないことを指摘すると「わかっている」「うるさい」と怒り返してくるし、親が手を出して片付けることはもっと嫌がります。部屋の中が常に汚いため、掃除が大変になってしまい、やる気が低下し、ますます掃除しなくなるといった悪循環に陥っているようです。このように言う私自身も、片付けが得意なほうではありません。娘に片付けを習慣づけさせたり、整理整頓の意識を育てたりするにはどうしたらよいでしょうか。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・子曰わく、「恭にして礼なければ則(すなわ)ち労す。慎にして礼なければ則ち(し)(くさかんむりに思)す。勇にして礼なければ則ち乱る。直にして礼なければ則ち絞(こう)す。君子、親(しん」に篤ければ、則ち民仁に興(お)こる」(泰伯第八)

・曽子曰わく「士は以て弘毅(こうき)ならざる可(べ)からず。任重くして道遠し」(泰伯第八)

【現代語訳】
・孔子がおっしゃった。
「恭しさも礼にかなったものでなければ骨が折れるだけである。慎重さも礼にかなったものでなければ卑屈と思われるだけである。また、勇ましくても礼にかなったものでなければ乱暴なものになり、正直であっても礼にかなったものでなければ辛辣なものになる。もし君主が親族に対し手厚い態度をとるようにすると、それを見習って人民に仁愛の心が育まれていくようになる」

・曽子が言った。
「教養のある人(上に立つ人)は、広い包容力と強い意志を持たなくてはならない。その任務は重く、その道ははるか遠いからである」

【解説】
 お答えします。相談者さん、お子さんに「片付けを習慣づけさせたり、整理整頓の意識を育てたり」するためにお父さんができることは、ただ一つ。自分がそれをすることです。嫌がって片付け、整理整頓をしてはいけませんよ。鼻歌を歌いながら、ニコニコの笑顔で、楽しく明るく、元気にやってください。仕事も同じです。料理や掃除も同じです。苦手なことをやっているときこそ、楽しくやるのです。そうした態度は、すぐにお嬢さんも気づき、きっと楽しく日々の片付け、整理整頓をやってくれるようになるでしょう。

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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