孔子は、30歳くらいの若さで亡くなった最愛の弟子・顔淵の人となりについて次のように述べています。
「惜しいかな。吾れ其の進むを見るなり。未だ其の止まるを見ざるなり」(子罕第九)
顔淵は、名誉栄達を求めることなく、ひたすら孔子の教えを信じて、突き進んでいった人でした。とにかく「進む」、どんどん「進む」、そして決して「止まらない」。顔淵にかかわるこの「進」とは、人格を磨くための学びの進歩をさします。
それは、安定した職業、たとえば「警察官」「医者」などに就く場合も同じことが言えます。どんな職業に就くとしても、大きな時代の変化の波に乗り遅れないために学び続けることが大切ではないでしょうか。そのためには「故きを温ねて、新しきを知る」(為政第二)ことも必要です。先行きが不透明な時代だからこそ、歴史や先人の知恵にヒントを求めることもあるでしょう。
そう考えると「孝なる乎惟れ孝、兄弟に友なり(父母に孝であり、きょうだいに友である)」という基本を外しては、どのような職業に就いてもうまくいかないということになるのではないでしょうか。
ご子息が職業を選ぶ年齢になるまでには、まだ10年ほどありますね。それまでに、ぜひ、人生の基本を『論語』から学んでいただければと思うのです。
お父さん、息子さんの将来は、息子さんに任せましょう! それよりも親も時代の波に取り残されないよう、日々「進み」、「止まらない」ように自己研鑽を続けませんか。「親の背を見て子は育つ」と言うではありませんか!
【まとめ】
どんな職業に就いたとしても、「親世代へ感謝すること、同世代の友と助け合うこと」が大事。時代に取り残されないように己を磨き続けよう
山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。