コロナ禍でも続くヘイト行動。その現場で闘う、記者の在り方とは――。

 保守系論壇やネット言論から「偏っている」と批判される「琉球新報」「沖縄タイムス」の記者たちを、ジャーナリスト・安田浩一は『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日文庫)で徹底的に取材した。

 フェイクやヘイトが溢れる時代のなかで本当の「偏向」とは何なのか……安田が迫った。(敬称略、「文庫版あとがき」の一部を抜粋・改編)

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 同じ現場に立ち続けること。まるで風景の一部であるかのように、気が付けば常にそこにいること。

 それができる新聞記者は、おそらくスクープを連発する記者よりも多くはない。

 だからこそ際立つ。圧倒的な存在感を示す。

 阿部岳(沖縄タイムス)も、その数少ない記者のひとりだ。

 その日も、彼はそこにいた。那覇市役所前の歩道に立ち続けた。

 この場所は、長きにわたってヘイトスピーチ街宣の舞台となってきた。毎週水曜日の昼になるとヘイト集団が陣取り、中国人や韓国人への差別を煽り続けた。彼らは「シナ(中国に対する蔑称)が県庁を襲う」「韓国客に工作員が紛れている」などと声を張り上げ、時に通りすがりの中国人観光客にも「出ていけ」と罵声を浴びせる。そんな醜悪な光景が5年間も繰り返されてきたのだ。

 2020年の5月から、そこに「NO HATE」のプラカードを手にした人々が集まるようになった。差別者集団へのカウンター(抗議活動)が目的である。

 呼びかけたのは名護市に住む高野俊一だ。高野はそれ以前から関西や関東で、ヘイトスピーカーたちへのカウンターに参加してきた。在日コリアンの「排除」や「抹殺」を叫んで隊列を組む者たちに抗してきた。私にとっては、差別の現場で顔を合わせる“路上の友人”だった。彼は沖縄に移住してからも、高江(東村)や辺野古の基地建設反対運動にも参加している。

 そんな高野が、名護から車で1時間も離れた那覇でのカウンターに参加するようになったのは必然でもあったが、それを多くの人に呼びかけるきっかけをつくったのは、阿部が書いた記事だったという。

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「記事を読んで、これ以上の被害を放置できないと思った」