怒羅権(どらごん)の元メンバーの汪楠(わん・なん)氏(48)。岐阜刑務所での13年間の服役を経て、現在はNPO法人「ほんにかえるプロジェクト」で、受刑者に本を差し入れることで更生を支援する活動に取り組んでいる。(撮影/藤中一平)
怒羅権(どらごん)の元メンバーの汪楠(わん・なん)氏(48)。岐阜刑務所での13年間の服役を経て、現在はNPO法人「ほんにかえるプロジェクト」で、受刑者に本を差し入れることで更生を支援する活動に取り組んでいる。(撮影/藤中一平)

 外国人の検挙人数が増加傾向にある。警察庁が2021年2月8日に公表した「犯罪統計資料(令和2年1~12月【確定値】)」によると、2020年の来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙人数は553名で、2019年の482名を上回り、過去5年間で最多となった。

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 とくに検挙者数の増加が目立つのがベトナム人だ。2018年は71名、2019年は77名に対して2020年は115名。確かに昨年は、ベトナム人グループによる家畜の窃盗などが世間を騒がせた。彼らが犯罪に手を染める背景には、労働環境の悪さや一部の悪質な企業による搾取があるといわれる。

 過去を振り返れば、外国にルーツを持つ人々が集団を形成し、犯罪に走るという事態はこれまで幾度も繰り返されてきた。なかでも悪名を轟かせたのは中国残留邦人の2世が中心となって1980年代に結成した「怒羅権(どらごん)」だろう。バブル崩壊後の90年代以降になるとマフィア化し、警察襲撃・強盗・人身売買といった凶悪犯罪に手を染め、現在も「半グレ」の代表的な存在として強い勢力を保持している。

 日本社会において、異なるアイデンティティを持つ人々が犯罪に走るとき、何を見て、何を思うのか。怒羅権周辺の人々へのインタビューを通じて、その手がかりを探る。

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「学校にも家にも居場所のなかった当時の私にとって、犯罪は自分と仲間をつなぐ媒体でした。自分と同じ境遇の者と食べ物を分かち合ったり、喜び合ったりすることができた。だからこそ『私がやらねば誰がやる』とさえ思い、何でもやったのです」

 そう語るのは、怒羅権の元メンバーで創設期から活動に関わっていた汪楠(わん・なん)氏。現在は受刑者の更生支援などを行うNPO法人で働くかたわら、メディアを通じて中国残留邦人が犯罪に走らざるを得なかった当時の境遇について発信を行っている。2021年1月には初の著書となる『怒羅権と私』(彩図社)を上梓した。

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