しかし、永遠の命を得た「鬼の妹」と、「人間」である炭治郎の寿命には隔たりがあり、禰豆子をひとりぼっちにしないためには、なんとしても、禰豆子にかけられた「鬼」の呪いを解いてやる必要があった。

 禰豆子は鬼化によって、兄・炭治郎を超える身体的強さと特殊能力を得たが、太陽の光に弱く、兄と鬼殺の旅に出かけるには、危険が多かった。また、禰豆子には「人間を喰わない」という制約があるため、「長時間眠る」ことでしか、体力を回復する方法がない。睡眠時の無防備な状態を考えると、禰豆子を連れて旅を続けることは得策ではない。

 実際に、炭治郎には、妹を鱗滝や珠世(たまよ=鬼でありながら炭治郎の味方)など信頼できる人物にあずける、という選択肢もあった。しかし、兄は妹と離れ離れになることを拒み、妹も兄とともにいることを願う。

<俺たちは一緒に行きます 離れ離れにはなりません もう二度と>(竈門炭治郎/3巻・第19話「ずっと一緒にいる」)

 兄・炭治郎は妹・禰豆子のために、禰豆子は炭治郎のために、力を合わせながら「呪いを解いて、自分たちの家に帰る」ことを目標として戦う。

 この兄妹の話において、特徴的なのは、「人ではなくなってしまった」兄妹の片方を、見捨てたり、置いていくことなく、旅に一緒に連れていくことであろう。これは自分の残りの人生のすべてを、血を分けた兄妹のためにささげる物語であると解釈できる。

■「長女」から「末っ子」になってしまった禰豆子

 ところで、竈門家の兄弟は、上から、炭治郎、禰豆子、竹雄、花子、茂、六太の6人兄弟である。「長男」である炭治郎は、父親がいない家計を支え、禰豆子は母と兄を支える、しっかり者の「長女」であった。

<ああ辛抱ばっかりだったな 禰豆子お前は><きっと人間に戻してやるから きっといつか綺麗な着物を買ってやる>(竈門炭治郎/1巻・第3話「かならず戻る夜明けまでには」)

 炭治郎が鬼になる前の禰豆子を思い出すシーンで、禰豆子は自分の着物のほつれを直している。炭治郎が「新しい着物を買わないと」と言うと、禰豆子は笑顔で「それよりも下の子たちにもっとたくさん食べさせてあげてよ」と断る。

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「長男と末っ子」になった兄妹