さて、時は流れて、俺がプロレスに転向して、京都で全日本プロレスの大会があったときに、当時もう二子山親方になっていた貴ノ花が顔を出してくれたことがあった。十数年会ってなかったのに、「おぉ、嶋田~、頑張ってるね~」って声をかけてくれてね。貴ノ花も俺のことを気にかけていてくれて、同期の桜だと思ってくれていたらうれしいね。

 大人になった実感といえば、結婚も大きかった。周りを見ると、俺と同じような性格のヤツが独身でチャラくやっているのも多かったから、ちゃんとしていないといつまた根無し草になるかわからないって危惧する俺がいた。それまでは、いいところまで行くけど結婚までは踏み切れなかったんだよね。お金もそこそこ稼げていたし、自由気ままに生きていたいと思っていたのも事実だ。でも、振り返るとあの時に結婚して良かったよ。結婚した時は「伴侶を路頭に迷わさないように食わさなきゃいけない」と同時に「天龍源一郎と結婚した女にしめしめと思わせてやろう」という気持ちもあった(笑)。結婚生活の自己評価? まあそれなりの結果は残せたんじゃないかな? いや、こういうことを自分で言うのは野暮だ。「まだまだこれからです!」と言っておいた方がいいか(笑)。

 それともう一つ、娘(※天龍プロジェクト代表の嶋田紋奈さん)が生まれたときも大人の責任を感じた。その責任感は俺と女房の間に子どもが生まれた事実もあったが、それよりも、今まで俺がプロレスでベルトを取ろうが何をしようが何にも言ってこないレスラーたちから「源ちゃん、娘が生まれたんだって。良かったね! おめでとう!」と言われたことだ。プロレスラーからの祝福の方が、プレッシャーを感じたね(苦笑)。

 娘が大人になったと感じたきっかけ? そうだなぁ……。

※ここかからは同席していた紋奈さんによる回想

【「高校3年生のとき、父と大喧嘩をして気まずくなっていたことがありました。その頃って、早く大人になりたいけれど、まだまだ子どもな年頃。私は口が立つからいろいろと言い合っちゃって(笑)。そんなある日、父に話があると呼ばれて『今日からあなたを大人として認めます。これからはさん付けで呼ぶし、いちいち怒ったりもしない。その代わり、間違ったことをしないように自分で考えて行動しなければいけいないよ』と言われました。生意気だった娘を尊重しつつ、父もひとつ上のステップに上がって諭してくれたことで、私も一段上に引き上げられたように感じました。天龍源一郎という父親にそう言われて、こちらも大人にならなければと身が引き締まる思いでした。とはいえ、ずっと一緒にいるせいもあってか、父とはいまだに『紋奈さん、何歳になったの? えぇ~もう30歳を超えたんだ~』というやり取りがあって、私の印象はいつまでも幼い頃のままのみたいです(笑)」】

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いくら娘でも一人の大人としてリスペクト