写真はイメージです(Getty IImages)
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和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している
和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している

 師走に入り大掃除の時季になりました。汚れにはいろいろあり、簡単に拭くだけで落ちるもの、なかなか落ちにくいものがあります。落ちにくい汚れを簡単に落とせる方法は主婦・主夫にとって救世主となります。徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)が、水回りの掃除、特に水垢について、「水垢の化学」と「水垢を落とす化学」をひもときます。

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水垢とは何か?意外な正体
 
 水が蒸発するだけでも、水中のミネラル分が残ります。これを水垢と呼んでもいいでしょう。やかんや電気式ポットを長い間使用すると、底に硬くて灰色がかった堆積物が生じます。これは厄介な水垢です。水垢は、シンク、水道の蛇口、ふろ場、トイレ、コーヒーメーカー、冷蔵庫の製氷機などにも、こびりつきます。

 まず、水垢とは何かを明らかにしましょう。びっくりするかもしれませんが、「水垢の化学」は、鍾乳洞や鍾乳石の形成、洗濯とも密接に関係しています。しかし洗濯の話は、ここでは割愛します。

 水道水に含まれる代表的なミネラルは、ご承知のようにカルシウム(その他にナトリウム、マグネシウム、カリウムなど)です。カルシウムイオン(Ca2+)として存在しますが、正確には炭酸水素カルシウム(Ca(HCO3)2)として水に溶けています。

 鍾乳洞ができるのは岩石(CaCO3、炭酸カルシウム)の隙間に、二酸化炭素(CO2、炭酸ガス)を含んだ水(炭酸水、清涼飲料水の炭酸)が流れると、化学反応を起こして、炭酸カルシム・CaCO3が水溶性の炭酸水素カルシウム・Ca(HCO3)2となって岩石が溶けるからです(反応1)。もちろんこれには長い年月が必要ですが、あの大きな洞窟ができ上がります。

 鍾乳洞に入ると、天井から鍾乳石のツララ(つらら石)や、石筍(せきじゅん、洞窟の洞床面からタケノコ状に上に向かって成長する鍾乳石)をよく見かけます。これは、岩石が溶けるのとは逆反応、すなわち炭酸水素カルシウム・Ca(HCO3)2を含んだ水が天井から滴下する間に、また滴下した後に、二酸化炭素・CO2が空気中に放出されると元の岩石(CaCO3、炭酸カルシウム)に戻るからです(反応2)。

 長い年月をかけて、これが繰り返されると石のツララと石のタケノコが成長します。反応1と反応2は、自然界で起こる真逆の反応で、ここでも二酸化炭素・CO2は循環しています。

 水を加熱・沸騰させると、反応2、すなわち自然界で水から石ができるスピードより速く二酸化炭素・CO2が空気中に放出されますので、同じやかんや電気式ポットを使って長期間お湯を沸かすと底に石がたまります。軽石ですが、これが水垢の正体です。

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水垢を溶かすには? 台所のあの調味料に着目