

衣類の洗濯は日常生活を送るうえで欠かすことができません。大昔と比べてずいぶん短時間で簡単に洗濯ができるようになりました。性能の良い洗濯機の登場と、優れた洗剤の開発が大きな理由です。変わっていないのは水。普段何げなく洗濯をしていますが、水と洗剤は化学と密接に関係しています。本稿では、徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)が、洗濯を化学(科学)の目で見る「洗濯の化学」をひもときます。結構面白いことが隠されているようです。
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■ 「お風呂の残り湯」の議論
昔から、「洗濯にはお風呂の残り湯を使え」と言われてきました。どうしてかを尋ねれば、返ってくる言葉は「水がもったいないから」。「こんな化学的な意味もある」と言えば、「そんなのうそだ、お風呂の残り湯は皮膚の油で汚れているから不衛生、洗濯には使えない」。この問答が普通です。
実は、水を温めると水の性質が変わり、洗濯に適するような水になります。洗剤の泡立ちがよくなり、洗剤の無駄が省けるのです。これが「お風呂の残り湯で洗濯」の理由です。このことを化学的に考察しましょう。
「洗濯の化学」ですが、結局は「水と洗剤」について知らなければなりません。まず、水の性質、とりわけ硬水・軟水とは、そして洗剤とは何かについて考えてみましょう。
■ 欧米旅行でお腹を壊す理由 硬水と軟水の違いとは
ミネラルが多い水を硬水、少ない水を軟水ということはよく知られていることですが、硬水と軟水は硬度という指標を使って表します。硬度とは水1000mlの中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表した数字のことです。
WHOの分類によれば、硬水と軟水は次のように区分されています。硬度60ミリグラム/L以下:軟水、硬度60~120ミリグラム/L:中硬水、硬度120~180ミリグラム/L:硬水、硬度180ミリグラム/L以上:超硬水となっています。日本では硬度100mg/L未満が軟水、100mg/L以上が硬水と分類するケースもあります。日本では軟水が多い(日本の気候や地形が生み出した結果、欧米は硬水が多い)のですが、関東、九州、沖縄で硬水の地域があります。