芸歴不問の大会だと考えて、この大会に向けて1年間努力を続けてきた中堅芸人にとって、このルール変更は寝耳に水だ。おいでやす小田、ルシファー吉岡、ヒューマン中村、三浦マイルドといった決勝常連の実力派芸人たちは、軒並み出場資格を失うことになってしまった。

 これまでの『R-1』の見どころの1つは、芸歴を重ねたベテラン芸人が見せる円熟味のある芸を楽しめることだった。ハリウッドザコシショウの誇張ものまね、アキラ100%のハダカ芸、だーりんず松本りんすのカツラ芸、とにかく明るい安村の全裸に見えるポーズなど、百戦錬磨の芸人たちが長年の試行錯誤の末にたどり着いたからだを張ったパフォーマンスの数々は、有無を言わさぬ説得力を持っていた。今回の変革によってそんないぶし銀の芸が見られなくなってしまうことは残念だ。

 だが、芸歴不問の大会を続けていれば、芸歴を重ねた芸人ばかりが活躍することになり、決勝の顔ぶれがいつまでも変わらないものになってしまう可能性がある。ベテラン芸人とそのファンにとっては酷な話だが、このルール変更は大会を空気を一新するために必要な「痛みを伴う改革」だったのだろう。

 このルール変更が吉と出るか凶と出るかはやってみないとわからない。これまで埋もれていた若手の実力者が、これを契機に新たに頭角を現す可能性もある。

 ピン芸は1人で演じるという特性上、漫才やコントよりも盛り上がっている雰囲気を作るのが難しい。『M-1』や『キングオブコント』に比べて『R-1』にやや地味な印象があるのは、ピン芸の性質によるものであり、出場者のレベルが低いからではない。生まれ変わった『R-1』でも、引き続きハイレベルな戦いが見られることを期待している。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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