写真はイメージです(Getty Images)
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和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している
和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している

 東京都墨田区の保育園で起きた食中毒が、いま注目を集めています。幸い園児は軽症だったものの、原因となった食品は、給食の「きつねうどん」。ヒスタミン食中毒だったとされています。赤身魚やその加工品が原因となることが多く、まれな食中毒ですが、なぜ保育園の給食で起きたのでしょうか。徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)が考察します。

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 東京都は11月16日、墨田区内の保育園で給食を食べた1~6歳の園児28人(園児75人と職員16名中)に、一時的に腕や顔に発疹などの症状(軽症、1時間ほどで収まる)が出たと発表しました。この原因を調べた墨田区保健所は、「きつねうどん」のスープから検出された化学物質「ヒスタミン」が原因の食中毒と推定しました。この食中毒は極めてまれなケースと考えられますが、本稿ではこの「ヒスタミン食中毒」を化学的視点から考えてみたいと思います。

■ 調理場で一体何が?

 墨田区保健所がヒスタミン中毒と推定した根拠は、提供された給食から微量ながらヒスタミンが検出されたこと、また患者の症状及び潜伏期間が同物質によるものと一致していたからでした。ちなみに、厚生労働省による2006年から2015年までのヒスタミン中毒患者年齢分布は、0歳から4歳が24.7%、5歳から9歳が16.7%、10歳から14歳が19.6%、計61%と、発症するのは子どもに多いことが分かります。今回の保育園のケースでも職員には症状が出ていませんでした。

 東京都健康安全研究センターによるヒスタミンの分析結果は、きつねうどん全体からは8mg/100g、同料理に入れたきざみ揚げからは20mg/100g、汁及びきざみ揚げを煮るのに使用したのと同じ「だしパック」(未使用品)からは5mg/100g未満が検出されたというものでした。内閣府食品安全委員会のファクトシートによると、一般的には、食品100g当たりのヒスタミン量が100mg 以上の場合に発症するとされていますが、実際には摂取量が問題であり、食中毒事例から発症者のヒスタミン摂取量を計算した例では、大人一人当たり 22~320mg と報告されています。

 子どもの場合は、より低い摂取量で症状が出る可能性はあるものの、上記の検査結果から考えると麺、きざみ揚げ、だしパックの中のヒスタミンが原因とは考えづらいかもしれません。分析方法の詳細が分かりませんが、気になるのは、未使用のだしパックのヒスタミンが5mg/100g未満であるのに、きつねうどん全体の、また、きざみ揚げの値が高いようにも思えます。

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調理の過程で化学反応が起きた?