銅イオンが関係した食中毒といえば、7月6日、大分県臼杵市の高齢者施設で、湯冷ましの水が入っているやかんにスポーツドリンクの粉を溶かして作った清涼飲料水を飲んだ入所者13人に、吐き気や嘔吐の症状が出たとのニュースが流れました。この原因は、やかんに溜まった「水あか」(軽石、炭酸カルシウム)に含まれていた銅イオン(水道水に微量に含まれる)がスポーツドリンクによって溶けだしことによる銅食中毒と推定された極めてまれなケースです。今回のヒスタミン中毒、だしを取る際に鍋が使われましたが、その鍋の「水あか」が気になります。

 さらに専門的になりますが、アミノ酸が脱炭酸し、その後、さらに別の化合物と反応することが知られています。これらのことを総合すると、今回のヒスタミン食中毒は、加熱によりヒスチジンから脱炭酸反応が進行し、ヒスタミンが生成したと推測することも可能です。したがって、元々だしパックにあったヒスタミンの量より多くのヒスタミンが、だしをとることにより増えたとも考えられるかもしれません。だとすれば、まれなケースですが、これは大きな問題です。

「使われた、だしパック」、「その他のだしパック」、あるいは「かつお節」の加熱後のヒスタミンの量を測定したデータがあれば一番いいのですが、なければ、しかるべき研究機関で一度検証したらいいのではないかと筆者は考えています。その結果が今回のヒスタミン食中毒の謎を解くカギになるかもしれません。

 一番だしの取り方に謎を解くヒント?

 日本古来の味付けのベースはだしです。だしは、かつお節、昆布、しいたけで取ります。かつお節の一番だしは、水を沸騰させたら火を消して、かつお節を入れ、それを1~2分後に濾して出来上がりです。決して長時間かつお節を煮ることはありません。これは何を意味しているのでしょうか、先人達は、意外と化学を知っていたのかもしれません。今回のヒスタミン食中毒の謎がここに隠されている可能性があるような気がします。(文/和田眞)

 <プロフィール>
和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している。