タワーマンションは供給時にデザイン性を重視するため、建物の形状が複雑なものが多く、大規模修繕工事の実施に不可欠な足場の設置も簡単にはできません。地上から組み立てる方式ではなく、ゴンドラ式の足場やエレベーターのように上下に移動する方式の足場が利用されることもあります。 

 また、居住者の協力が必要ですが、ベランダの隣家との隔て板を外して横移動できる工事動線を確保できるかどうかは、工期や工事費に大きく影響します。 

 これまでの工事事例を見ても、個々の建物の特性や管理組合の考え方が違うことから、多様な技術情報のなかからカスタマイズしていき、すべての居住者を含む管理組合と設計コンサルタント、そして施工業者が一つのプロジェクトチームとして話し合い、協力し合い、最善策を見いだしていくという方法をとっているのが現状です。 

 最近では足場の開発が進んでいたり、開閉式のベランダ隔て板なども商品化されたりしていますので、こうした情報提供ができる設計コンサルタントや施工者を見つけることが重要です。 

■タワーマンションならではの難しさ 

 タワーマンションは戸数が多く、海外投資家などが所有する住戸も少なくありません。このため一般のマンションよりも区分所有者の意見がまとまりにくいこともあります。 

 (1)未経験のことが多く工事全体が発展途上、(2)超高層空間の施工が周囲に不安を与える、(3)建物の劣化状況を簡単に診断できない、(4)不在区分所有者が多く合意形成が難しい、といった点が、タワーマンションならではの修繕の難しさといえるでしょう(図表B)。 

 また、国土交通省「平成30年度マンション総合調査」では、近年の修繕積立金の積立方式は段階増額積立方式を採用しているケースが増加してきており、修繕積立金が不足するという管理組合は34・8%となっています。特にタワーマンションは、管理形態を充実させることや付帯施設を設けることで管理費が割高になる半面、新築販売時に修繕積立基金を徴収し修繕積立金を割安に設定しているケースが目立ちます。 

 この場合、1回目の大規模修繕工事は基金負担分がある修繕積立金で実施できるでしょう。しかし2回目や、さらに給排水設備工事などが必要となる場合は、修繕積立金の増額や一時金徴収など、管理組合が区分所有者に合意を得るための労力は想像に難くありません。 

 1回目の工事を計画する段階で自分たちのマンションの特性も見えてくることから、給排水設備などの問題意識をもち、できれば国土交通省も推奨する均等積立方式に変更しておくなど、2回目の工事などに向けた対策を検討することが重要です。 

(文/飯田太郎、監修/マンション計画修繕施工協会) 

※週刊朝日MOOK「資産価値を守る!マンション管理・修繕・建替え大全2021」から