作家の北原みのりさん
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性暴力への抗議、人権問題の象徴である少女像(c)朝日新聞社
性暴力への抗議、人権問題の象徴である少女像(c)朝日新聞社

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、ジェンダーという視点からみた日本史について。国立歴史民俗博物館で開催中の「性差の日本史」は、現代の性産業についても深い考察をもたらしてくれたという。

【写真】“少女”の瞳は何を語るのか

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 日本史をジェンダーの視点でひもといていく企画展「性差(ジェンダー)の日本史」(国立歴史民俗博物館)が面白い。国立の博物館ではこれまであまり関心を持たれなかったジェンダー、さらに性売買の歴史にも強く焦点をあてるという画期的な試みだ。

 ジェンダーの視点とは、権力者(ほぼ男性)の視点で語られてきた歴史(語り手はほぼ男性)を、いったん脇に置いて、「女性」というマイノリティーの視点から歴史をとらえていく作業。または、「女性」や「男性」が、どのように「つくられた」のかを考える過程。まぁ、フェミがずっとやってきていることです。

 企画展では古代の日本では西に女性首長が多く東に男性首長が多い傾向があったとか、戸籍がつくられる7世紀までは、女男の区別をつけない女男混合名簿文化だったとか……中世では家を統率する女性たちが多くいたこととか……。教科書で学ばない日本史が立体的に描かれる。

 それにしても時代が変わるたびに、日本がどんどん女に冷酷になっていくのが、悲しい。日本の近代が女性を公から排除していく過程であったことは知られているけれど、「性差の日本史」で気づかされたのは、性差別の深まりは、性産業が、男性が牛耳る産業として政府公認で整えられていく過程と、ぴったりと符合することだった。

 例えば江戸の遊郭。女性が与えられる食事は一日2食で、丸2日食べさせてもらえないこともままあった。暴力による管理が公に認められているので、激しい折檻(せっかん)は日常だった。また三井などの大商店が、吉原の特定の店を指定して奉公人の性の管理をしていくのも、日本の「買春文化」が発展していくことに寄与した。買春文化が広まれば広まるほど、吉原の経営者の競争は熾烈化し、店同士の競争が激しくなればなるほど、女性は過酷な状況に置かれていったという。

 明治になると、「買春」が特定の層の特定の遊びではなく、男ならば女を買うのが当たり前! そういう文化が急速に広まっていく。男性の息抜き、男性の一体感、男性の性の管理……富国強兵の陰に買春あり、だ。言うまでもなく、その先にいきつくのが、世界に類を見ない規模で軍が関わった「慰安婦」制度だった。

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セックス=労働?そんな簡単な議論なのか