日本は戦後に連合国軍総司令部(GHQ)が禁止するまで公娼制度を手放さなかった。そして公娼制度をなくした後も、男性が買えるシステムを守りぬき、今にいたっている。ジェンダーの厚い視点で日本史をみると、女の泣き声が聞こえてくる。今の性売買と昔のそれを比べるな、という声もあるかもしれないが、制度は変わっても「買う意識」は変わっていない。当たり前のように、男に用意された、性のサービスに疑問すら持つことのない文化を、日本は育ててきた。

 コロナ禍で、女性たちの生きにくさが過酷に露呈している。セックス=労働として捉えるような議論も、コロナ禍で盛んになってきてはいるが、そのように簡単に議論できるものなのだろうか。「男性は性を買うもの」という日本の「買春文化」は、常に新しい「商品」を必要とする。買春男性の需要を満たすために、ある時代は人身売買し、ある時代は借金を背負わせ管理することが認められてきた。今運営されている性産業にそういう要素が全くないと言えるだろうか。日本はG7先進国の中で最も女性と男性の賃金格差がある国でもある。そういう社会で女性が「高収入」を得られるとされる職業が残り続けていることの意味も、ジェンダーの視点で考えていく必要があるのだろう。

「性差の日本史」の図録を買った。冒頭のあいさつで1975年の国際婦人年世界会議について触れられていた。世界の女性たちが集まり、女性に対する暴力、差別の撤廃が約束された記念の年だ。それから45年。日本のジェンダーギャップ指数は世界121位だ。国際社会では1990年に、95年までに決定権のある立場に女性がつく割合を3割にしようという目標が出されていたのに対し、日本はその目標をたてたのが2003年、そして今年がその期限だったけれど全くできていない状況。明らかに、この国は性差別に関心のない冷たい男の顔をしている。
 
 こういう日本で、性産業が途切れることなくあり続けることの意味を、しっかり立ち止まって考える必要があるのかもしれない。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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