阿佐ヶ谷姉妹とずん飯尾和樹(C)朝日新聞社
阿佐ヶ谷姉妹とずん飯尾和樹(C)朝日新聞社

 ずんの飯尾和樹は、外見も至って普通のアラフィフ中年芸人だ。「ぺっこり45度」「忍法メガネ残し」「屈伸ついでにレディー・ガガ」などの脱力系ギャグの使い手としても知られる。

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 現在、そんな飯尾の勢いが止まらない。バラエティ番組での活躍はもちろん、総務省やメルカリなどのCM出演の仕事も多く、役者としても数々のドラマに出演している。いまやテレビで見ない日はないほどの人気ぶりなのだ。

 同じくアラフィフ枠の女性芸人として注目を集めているのが阿佐ヶ谷姉妹である。阿佐ヶ谷姉妹は、その名の通り阿佐ヶ谷在住の渡辺江里子と木村美穂のコンビ。血縁関係はないが、見た目が似ていると言われることも多く、少し前までは同じアパートの一室で共同生活を送っていた。

 彼女たちの売りは「おばさんキャラ」である。ネタを演じたりバラエティ番組に出たりするときには、見た目や言動が一般的な「おばさん」のイメージそのままであることを巧みに利用して笑いを取っている。

 今のお笑い界では「第七世代」と呼ばれる若い芸人が次々にスターになっている。見た目も華やかな若手芸人には、若者を中心に多くの人の注目が集まりやすい。

 一方、飯尾や阿佐ヶ谷姉妹のような「ゆるふわ中年芸人」には、第七世代の芸人のような若さや華やかさがあるわけではない。なぜ彼らのようなゆるふわ中年芸人がいま支持されているのだろうか? それを解くためのキーワードは「優しさ」と「日常感」である。

 今の地上波テレビの視聴者の多くは、テレビに癒やしを求めている。視聴者の大半は高齢者であり、刺激的なものを見たいとは思っていない。エンターテインメントとして過激なものや下品なものを求める人は、地上波以外の場所でいくらでもそれを楽しむことができる。

 お笑い界にもその影響は及んでいる。最近、人気を博しているのは、人柄の良さで知られるサンドウィッチマンや、相手を否定しない「優しいツッコミ」の使い手であるぺこぱなどである。いずれも面白さに加えて優しさが評価されているタイプの芸人なのだ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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ゆるふわ中年芸人は今の時代にこそ必要とされている