ヤクルト・小川泰弘 (c)朝日新聞社
ヤクルト・小川泰弘 (c)朝日新聞社

「ジャーーン」というエレキギターのストロークから始まる軽快なイントロに「You gotta roll with it……(流れに乗っていくんだ)」という歌い出し。プレーボール直前の神宮球場に流れるイギリスのロックバンド、オアシスの『Roll With It』を聞きながら気持ちが高ぶっていくのを感じたのは、彼らが筆者のお気に入りのバンドだからというだけではなかった。

 グラウンドに向けた視線の先で投球練習を続けているのは、「ライアン」ことヤクルトの小川泰弘。今年からこの『Roll With It』を自身の登場曲としている30歳の右腕は、8日前の8月15日にDeNA戦(横浜)で球団14年ぶりのノーヒットノーランを達成したばかり。それに続く登板となるこの日のマウンドで、いったいどんなピッチングをするのだろうという期待が、高揚感となっていたのだ。

 午後6時のプレーボールから1分あまり。三遊間へボテボテのゴロを転がした阪神の1番・近本光司が俊足を飛ばして一塁を駆け抜け、スコアボードに「H」のランプがともされる。「2試合連続ノーヒットノーラン」の夢はあっという間に潰えたが、前日の囲み取材で「普通に勝ちたいです。もちろんそんなこと(2試合連続ノーヒットノーラン)ができたらすごいですけど、それよりも流れを読んでしっかりと勝ちに貢献したいと思います」と話していた小川にとって、変に記録を意識する必要がなくなったのは幸いだったのかもしれない。

 この回は2死二塁から得点圏打率セ・リーグNo.1の4番ジェリー・サンズに適時打を浴びて1点を失うも、「前回登板同様、1球1球気持ちの入った投球ができているので、集中を切らすことなく攻めてほしい」という斎藤隆投手コーチの思いに応えるように、2回、3回、4回と阪神打線に二塁を踏ませないピッチングを続けていく。

 1点リードの5回には無死一、三塁のピンチを迎えると、9番・秋山拓巳のスクイズを素早く処理して本塁に送球するが、ボールが高く浮いて同点。だが、そこから打者9人をパーフェクトに抑え、88球で7回を投げ切った。

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“悲劇”がつきまとった小川のキャリア