「両親は、僕が10歳のときにはすでに離婚が成立していたみたいです。でも、父は『子どものことは忘れたことはない』と言って、小さい頃の写真も持ってきてくれました。僕は平静を装っていましたが、泣きそうなくらいうれしかった。離婚の原因は、母の実家との確執であることもわかりました。実は弟には知的障害があるのですが、そうした子が生まれたのは父の家系のせいだと、祖母からずっと責められ続けていたようです。閉鎖的な土地柄なので、このまま一緒にいたら子どもたちにも悪い影響が及ぶかもしれないと離婚を決意したと。僕は母から『お父さんは浮気をした』と聞かされていたので驚きました。父もすでに新しい家庭を築いていて、僕にとっては妹になる女の子もいる。義母もすごくよくしてくれて、1年に1度は父の家に遊びにいく関係になりました」(Aさん)

 その一方で、実父に会いにいったことを知った母親は激怒したという。「二度とこっち(北陸地方)には帰ってくるな!」「おまえは家に入れない!」と罵倒された。だが、すでに自立しているAさんは「母も子どもの気持ちを引き留めたくて必死なんだと思います」と語るように、親と距離を置いて関係性を考えられるようになった。

 Aさんは自身の経験を踏まえて、共同親権をめぐる今の動きに対してこう話す。

「僕は共同親権の導入には賛成の立場です。一度目は同意のない『連れ去り』だと思っていて、結果的にDVまで受けることになった。二度目はDVから子どもを守るための『連れ去り』に近いと思いますが、僕の同意なく環境を変えられたことには変わりありません。何よりも15年以上も一方的に父との関係を遮断されたことは、精神的な虐待でさえあると思っています。子どもの同意なく『連れ去る』ことは心理的な虐待につながることもわかってほしいです。ただ、今の共同親権の論争については、推進派も反対派も政治闘争になっている側面があり、本質的な『子の視点』からずれてしまっているように感じます。先の集団訴訟は世間の関心を喚起するアクションだとは思いますが、子が巻き込まれる過酷な現状にまで目が向いていないのは残念です。議論から子どもを切り離さず、親からの視点ではない、本質的な『子の福祉』を考えてほしいと思っています」

 壮絶な体験をしながらも、今の共同親権の議論にも問題提起をするAさん。「賛成派」「反対派」という立場で議論を分断すべきでない、というAさんの言葉はとても重い。(取材・文=AERAdot.編集部・作田裕史)